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ホドロフスキーのDUNEのKuutaのレビュー・感想・評価

ホドロフスキーのDUNE(2013年製作の映画)
3.8
大いに笑った。良いドキュメンタリー。

超精鋭スタッフとキャストを集めながら製作中止となった幻の「DUNE」について、ホドロフスキーや関係者のインタビューをまとめている。

プレゼン資料として当時複数の映画会社に渡したという分厚い企画書が出てくる(それを読んだニコラス・ウェンディング・レフンが「俺はDUNEを見た唯一の観客だ」とドヤ顔で出演している)。

映画は作られなかったものの、その企画書がスターウォーズ含め数多のSF作品に影響を与えたこと、DUNEのためにホドロフスキーが集めたスタッフが、後のSF映画の中心になっていくことが分かる。出てくる名前がどれもレジェンドすぎる。

インタビューや数々のエピソードを見るに、ホドロフスキーの人柄の良さや、狂気じみた熱意が伝わってくる。人を惹きつける力があるとスタッフの1人が語っていたが、本当にその通りだと思ったし、だからこそこれだけのメンバーが集められたのだろう。

ただ、映画会社がデヴィッド・リンチに企画を移してしまったのは、ホドロフスキーの作風に原因の一端はあるわけで、この企画が用意できたのも、潰れてしまったのも彼の責任なんだろうなと思った。

ざっくり三部構成。
最初はホドロフスキーが何者なのか、「エルトポ」や「ホーリーマウンテン」の説明を入れつつ概略する。映画文法を何にも知らないで撮ったデビュー作。「上映したらメキシコで暴動が起きた」といきなり面白すぎる。

「世界中の人の意識を変えるために映画を作っている」「預言書を作りたい」「LSDをやらずにLSDのような体験を」と語るカルト映画の巨匠。エルトポの成功で資金を得て「思い通りにやった」のがホーリーマウンテンだったらしい。

続いてDUNEのメンバー集め。ドキュメンタリーとしてはここが一番面白い。

オープニングは広い宇宙から砂の惑星DUNEに降りていく長回しで始める予定だった。「黒い罠」を超えるつもりだったのに!と息巻くホドロフスキーが可愛い。

2001年宇宙の旅のダグラス・トランブルを特殊効果で起用しようかと思ったが、横柄な態度に「技術はすごいが精神的にダメだ。預言者にふさわしくない」。代わりに依頼したのが「ダークスター」で脚本や特殊効果をやっていたダン・オバノン。マリファナでフラフラにして勧誘。

海や魚をイメージしたクリス・フォスの宇宙船スケッチも登場する。スターウォーズ的デザインに慣れた自分からすると非常に新鮮で、「公開されていたらこんな宇宙が当たり前になっていたのかも」というロマンを感じた。

音楽にピンクフロイドを起用した話も笑った。スタジオに会いに行ったのに、愛想なく昼飯を食べ続けるメンバーにホドロフスキーがキレる。「その態度はなんだ!ビックマックなんか食いやがって!」。最高。

主人公のポールにはエルトポ同様に実の息子を起用。映画づくりは神聖な行為であって、代償が必要だから実の息子も使う。さらっととんでもないことを言っている。銀河帝国の皇帝役には、苦労の末に画家のダリの出演を取り付ける。ダリから見せられたイラスト集をきっかけにギーガーをスカウトし、悪役のデザインをやってもらう。太った悪役にはオーソンウェルズ。

第3部。製作中止とその後。
「企画は完璧だが、監督が問題だ」と映画会社は買わなかった。実際問題、ホドロフスキーのスタイルでは予算や時間とバランスを取った製作は無理だっただろうし(本人は「12時間、いや20時間の映画にしたい」)、当時のアメリカでは作りようもない、というのは事実だったのかも。

企画を持っていかれた後、失意でふらふらになりながらもリンチ版を観に劇場へ足を運ぶと「あまりのひどさに段々元気になった」「人間として当然の反応だ」。非常に素直で好感が持てる。

DUNEが無ければエイリアンは生まれず、ブレードランナーにも繋がらなかった。ブレードランナーの続編を完成させたヴィルヌーヴは今、二部作構成でDUNEのリブートに取り掛かっている。輪が一周した感じがある。今作で出てきた色んなイメージも、新作に使われているのだろうか。75点。
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