月うさぎ

インセプションの月うさぎのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
4.4
映像の迫力に圧倒され、夢のイマジネーションに驚かされ、不可思議な非現実世界に取り込まれる。なんともパワーのある映画。と、同時にこちらも観るのにパワーを使う映画。
これもまたアイデンティティの不安を題材にした映画でした。
ディカプリオって一見スマートでかつ男らしいイメージなのに精神的に病んでるって役が多い気がします。そういう表現が上手いからかな?

他人の夢に登場人物となって入り込み、夢に影響を与え、潜在意識の中に特定の考えを植え付けるという「インセプション」という作戦。
それを仕事(金)にするチームの活躍を描いたSF&アクション映画。
入った夢から、さらに次の階層の夢の中に入り、そのまた次の階層と、複層的な構造が展開。
不可思議でパラレルな世界が次々に加速していくジェットコースター的なすさまじい展開

ローラン監督が撮りたかったのは、都市の崩壊や重力無視の格闘&銃撃戦や、雪上や水中の戦闘シーンなどなどの映像だったのでしょう。
夢の中だからなんでもありだよね。という発想で自由にやってます。

私が一番好きなのは大都会の景色がぐわ~~んって歪んで崩壊するシーン。
これぞSF的なスケールですね~と、映画館で観てよかった~!とつくづく思います。
こういう映像命の作品は映画館でないと本当のよさがわかりません。
でもノーラン監督はこの時は3Dに敢えてしなかったのだそうな。
今となっては3Dを特段に崇める必要はないかと思いますが、当時は最先端なら3D、凝った映像はみんなCGだと、シロウトの私などは疑いもなくそう思っていました。

世界各国に舞台が次々と移り変わりますが、すべてロケで撮影されたそうです。
日本の新幹線が出てきますが、車内はセットなので現実感とのギャップが面白かったりします。
しかし車両は自分で本物を撮りたかったらしく「緑あふれる田園風景を新幹線が駆け抜ける場所」「背景に茶畑と鉄橋が欲しい」というリクエストから静岡県の富士川周辺が撮影地として選ばれたそうです。

ノーラン監督は特撮の極限に挑戦しているようです。

メイキング映像を観て初めて知りましたが、コブ(レオナルド・ディカプリオ)の仲間であるアーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が無重力の廊下で戦闘するシーンはこの作品の見どころですが、やはりCGは使われていません。2001年宇宙の旅方式を採用ですね。装置はより大掛かりですけれど。
電車が道路を滑走し、次々に車にぶつかるというシーンも、実寸大の電車を作ってから大きなトラクターに積んで街中を走らせている
と言うからあまりのスケールに驚くじゃないですか!もう、バカでしょう(褒めてます)

第83回アカデミー賞で撮影、視覚効果、音響編集、録音の4部門を受賞したというのもごもっともです。

しかし、映像もこんなに凄くて忙しいのに、非常に複雑なストーリー展開で、ついていくのが大変。
1度観ただけではきっと細かいところまでは意味がわからない。
だからビデオで…というのでは、少々不親切なんではないかと思うんですよ。

実は脚本的には無駄が多くて、結論がないんです。
ラストシーンの意味、そしてその結末や続きは「観客が自分で考えろ」という映画です。
時にそれこそが余韻であり有効な映画もあります。哲学的なテーマならね。
でも、これはそうではなく、監督がちょい逃げたなと思います。尻切れとんぼという訳ではなく、結論つけないままで謎オチだなって感じでした。

主人公の「妻」の幻影がしつこく付きまとい、彼女がチームに危機をもたらすのですが、
チーム・リーダーならば、その危機を排除すべく決断力を持つことが必須で
それができない意志薄弱な人は人の命を預かる資格はありません。
チームを降りるべきです。
そういう部分でイライラしてしまう私は、この結末にはとても不満です。

「妻を失った現実と向き合えず夢の中に生きるようになってしまったコブが現実と向き合い、モルの投影と対峙できるのか」
もしもこれが映画のメインテーマだとすればね。
私はなんかこれ、違う気がする。むしろこのエピソードは丸々ない方が純粋にスリラーとして楽しめる気がする。
同時期のディカプリオの「シャッター・アイランド」で見せた妻を失った男の囚われた心のあり様には説得力がありましたが、コブには共感できなかった気がします。
盛り込み過ぎなんではないかと…
辻褄合わせも必要ない。夢だから。みたいな部分もあるし。

夢の扱いについてもどうも納得できない部分があるんですよね。
夢の世界から帰れなくなるとかいうのは、ご都合主義というか、ちょっと間違っていると思います。
また、フロイト・ユングの主張した無意識の世界や夢の意味などに関して過大評価は危険です。
夢が深層心理とつながっているという証明はありません。
つながっていないという証明ができないにすぎません。

「インセプション」は劇場で一回しか観ていないので、今改めて見返せば、異なった感想になるかもしれません。悪しからず。


「妄想」を見せるのに、映画は最適な表現手段ですね。
平凡な夢しか見ない私などが(ドラッグも無しに)妄想の世界へ入ることができる、
そんなひと時の「夢」が映画だというなら、この映画には充分そのパワーがありました。

どっぷり「夢」に浸かりたいときにどうぞ
月うさぎ

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