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うたうひとのarchのレビュー・感想・評価

うたうひと(2013年製作の映画)
3.9
震災後の東北記録三部作第3部として製作された本作は、東北で活動する「みやぎ民話の会」のメンバーを中心とした民話と継承についての映画となっている。

・カメラワークについて
とにかく「物語を語る」という場面と、それを合いの手を入れながら聞くという行為で構成される。ほとんどフィックスで撮影される中で、複数台のカメラで行われる切り返しショットは、話者と聞き手という関係性を強く印象づける。
冒頭の4人の会話シーンでは少なくとも6台のカメラが互いのカメラが映り込まないように配置されている。また中盤における1対1での会話シーンでは突然カメラは両者の正面に位置する。それまではイマジナリーラインを割ることのない実態あるカメラ配置だったのに、会話が途切れることなう、突然正面に切り替わるのは驚かされる。これは切り替わる1つ前のカットで、音声と映像が不一致になることから、ここを編集点として、両者の前にカメラを配置したのだと想像できる。

・方言
とにかく語ることに重きを置く本作で、方言は「地方色」を前景化させ、改めて日本語の不思議さ(ひいては言語の複雑さ)を感じさせてくれる。思えば『ドライブ・マイ・カー』でも「言語」を意識下に引きづり出されていて、これは濱口監督の趣向といって差し支えないのではないか。
その聞き取れるか否かを反復するような言葉の数々は音楽的な心地良さがあり、(聞き手にとって)既知の物語であることも含めて、どこか落語のような趣がある。

語っていた物語の内容については、ちゃんと記憶できていないのであまり触れないが、物語を聞くという行為の「イメージさせる力」にはどこか力強さが感じる。
広大な海、そこに生えている巨木、空を飛ぶ大鷲。
話し言葉の羅列ではなく、その言葉が連想させるイメージだけが私には残っている。そのイメージの芳醇さと語り聞かせるという行為の「継承」という側面、それがとても婉曲的に被災という要素と繋がっているかのようだった。
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