Bellissima

物語る私たちのBellissimaのレビュー・感想・評価

物語る私たち(2012年製作の映画)
5.0
『物語る私たち』@ユーロスペース

サラ・ポーリーが11歳の時に他界した母ダイアンの知られざる過去と自分の出生の疑問を紐解いていく秘跡劇。父兄姉友人仕事仲間にインタビュー形式で話を聞き出していく。それぞれの表情から覗く複雑な思い、語りの中に常に浮かび上がる母のシルエット。家族とは、夫婦とは、真実とは、愛とは、

私たちが愛だと思っているものの表皮を剥ぎ取り、その正体の深刻さを眼前に曝け出す。母の揺れる想い・隠された秘密がフラクタルに枝葉を伸ばしながらもその総体としては、「愛」とは何かという問いへの具体的な回答足り得ている。リアルでありながらドラマチック 面白いとしか言い様のない まぎれもない傑作

見えるものは、見えないものによって常に脅かされ沈まされる。実際に起きた事態はひとつ。けど、その事態にどのような感情を抱くかで事態に対する印象や感じ方は変わる。世間一般で言う善悪の尺度に囚われていたら辿り着かない地点で知った自分の真実。人の数だけ真実は無数にある。

物語を物語る。見ていると「あれっ、あれっ?」と、虚実の境を失う混乱が現実をも侵食する創作の「魔」を強調しており凝った映画文法まで含め、まんまサラの術中にハマった感じが心地よい。フェイクドキュメンタリーって怒り出したら映画はみんなフェイクドキュメンタリーっすよ。絶品!

陰影深い驚愕や沈黙も、思わず吹き出した“あの”一言にも心の洗われた思いがする。堅牢な城郭を思わせる緻密な構成の箱庭の中で遊ぶもよし、投げ掛けられた問いとその答え(映画の造形)に異を唱えるもよし、サラの人生をそこに見いだすもよし。とにかく多層的な楽しみ方が保証されている。


(雑感) 最後にはジーンときましたよ。だけどそれはもっと多様で複雑な回路がそこにはあるわけで。サラがそこで知った事を人生の一部と受け入れこれからの人生に生かそうとする自分の選んだ道。映画造作が作為的と取られようとも後悔はない。そういう映画作家としての強い決意表明が感じられた。


(追記 9/28) 今年上映された作品の中でも「渇き」「私の男」など父娘関係を描いた作品が目立つ。思春期父親の養護から自立しようとする心の働きや身体成長に伴い父を異性として意識し嫌悪したり逆に捩じれた愛情へと変化したりと接し方は難しい。この作品 母親を語りながらも父娘の関係性も確りと浮かび上がらせる所も必見だ。

「物語」を最重要視するのならば何も映画ではなくて「本」というメディアに語らせればいい。本作はそこをこえて「映画」本来の魅力が画面内に染みわたたっている。そこがこの作品を愛して止まないとこでもある。
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