大脱走よりも寧ろ『第十七捕虜収容所』で、捕虜とは思えない楽観性を波及させているがベッケルやブレッソンのような緊張感も強かに持ち合わせている傑作。
単独脱走を試みる元士官が、外壁まで到達し得たか否かを知るためには収容所内でひたすら秒読みを続けるしかない男たちの接写(直後の銃撃音)は、抜歯シーンからの落差によって活きるわけで。
ルノワールには決して完全な「悪」が登場しないことは周知の通りであるがここでも捕虜は勿論、監視や哨兵でさえ彼らは自身の責務を全うしているのであって、あの素晴らしいとしか言いようのないラストを目にして確信するのは、結局『大いなる幻影』から何も変わってないじゃないかという深い安堵感なのだ。