カトゥ

言の葉の庭のカトゥのレビュー・感想・評価

言の葉の庭(2013年製作の映画)
4.5
まだ自他共に認める若者、青二才の頃を思い出させる映画。
特に何があったわけでもないのに、なんとなくサボって大きな公園で時間をつぶす、そんな習慣を持っていた時期が、人生で何度かあった。いわゆる“ほっこり”するような生暖かさではなくて、かといって大きな憤りがあったわけでもなくて、寂しいが誰かを求めるわけでもない。たぶん、そういう形の、逃避の時間と場所が必要だったのだろう。

そんな場所には、やはり似たような人が集まる。映画のように深いやりとりや感情の摺り合わせがある訳では(もちろん)無い。ただ、軽い会釈や短い会話だけでも、それは特別な思い出として残る。

そういう、奇跡ではないが特別なひとときを、新海流に作り上げた映画、だと思っている。自分の周囲では、「都会暮らし」あるいは「若い頃から大人びていた人」の評価が高い。想像力を(一種のスキルとして)他人に高く評価されている人も傑作だと褒めている。孤独に価値を認める人向け、といったら言い過ぎだろうか。
僕は「新海誠監督作品らしさが溢れていて好き」だった。傑作とまでは言わない。ただ、友人の「『言の葉の庭』という意味を考えてみなさい」という言葉で評価を改めたことは確か。短編小説的な面白みがある。

巷で言われるほどリアリティを損なった不自然なストーリーではないと思っている。もっと突飛で、みっともなくて、予想外の出来事は珍しくないと知ったのは、ずいぶん歳をとってから。
だからたぶん、学生時代に観たら、評価が低かった。あの頃の教養と経験と想像力では楽しめなかった気がする。

ただ、綺麗すぎる背景と、そこに被さるモノローグ、そして高らかに響き渡る主題歌、といった“新海流”が、気恥ずかしさと嘘っぽさを醸し出していて、損をしているようには思う。過剰なキラキラ・バラード感。
僕はそういうの、まるで気にならない。むしろ大好物なので、これからも新海誠監督には頑張って欲しい。これからも綺麗な都会とぐるぐる回るカメラワークと主題歌とモノローグを山盛りの作品を作って欲しい。
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