こなつ

もうひとりの息子のこなつのレビュー・感想・評価

もうひとりの息子(2012年製作の映画)
4.0
2012年製作されたフランス映画。18歳の息子が病院のミスで取り違えられていた事を知った2つの家族の物語。「そして父になる」と同じ題材を扱った作品だが、今となってみれば本当に貴重な映像だと感じた。

フランス系イスラエル人の息子ヨセフとパレスチナ人の息子ヤシンは、湾岸戦争の最中に同じ病院で産まれ、爆撃を逃れるため一緒に保育器で避難した混乱の中、取り違えが起きていた。ヨセフが兵役の検査を受け、血液型が親と違うことで判明した事実。自分の息子が本当は敵の子供だったという衝撃。2つの家族の揺れ動く心情を丁寧に追っている。

検問所を抜けるとそこは別世界。ヨルダン川西岸地区、開放的で豊かなテルアビブの街とは違って壁で囲まれた貧しい街並み。自分達はイスラエル人に土地を奪われたと恨むパレスチナの人々が、そこで苦しい生活を強いられている。通行証が無ければもう二度と海を見ることも出来ない。

我が子と疑わずに18歳まで大切に育ててきた息子。自分が産んだにも関わらず、一度もこの腕に抱くことが出来なかった息子。どちらかを選べなんて親にしても子供にしてもそんな惨いことはない。苦しい母の葛藤をフランスの女優・エマニュエル・ドゥヴォスとパレスチナの女優・アリン・オマリが好演。

ユダヤ教を唯一の神と信じて18年間熱心な信者だったヨセフだったが、牧師に「母親がイスラエル人でなければ、ユダヤ教は信仰出来ない」と言われた辛さ。明日からイスラム教を唱えろと言うのだろうか?

イスラエルとパレスチナの問題を独自な視点で捉えたユダヤ系のフランス人監督ロレーヌ・レヴィ。イスラエルやパレスチナのキャスト達と相談しながら作り上げたという本作。出生なのか育った環境なのか、アンデンティティが揺さぶられながらも、何とか共存の道を見付けていこうとする18歳の息子達の姿に胸が打たれる。

今なお激しくなる戦火の中で、ガザとイスラエルには共存の道はないのだろうか?
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