Kuuta

バッド・チューニングのKuutaのレビュー・感想・評価

バッド・チューニング(1993年製作の映画)
4.1
いやー良い映画だ。中身は何も無いけれど、2時間弱全く目が離せなかった。だらだらの群像劇を飽きさせずにまとめてしまうリンクレーターの手腕、素晴らしいの一言。

ヒッピーな60年代も終わり、アメリカがどこに向かっているのか分からなかった1976年。夏休みに突入した中学生と高校生。新入生の通過儀礼を経て、不良も真面目な子も羽目を外して少しだけ大人になる。

いずれ待ち受ける死を意識しつつ今を生きている。この映画では夜明けこそが死。朝が来ると知っていながら、もう一杯ビールを口に運び、街を見渡す高台の「ムーンタワー」に登る。今の時間を告げる人は誰もいないし、スマホもSNSも存在しない。

中学生はまだ見ぬ世界に心躍らせ、高校生は現実を受け入れつつ、自分の世界を広げようと必死だ。

ケチャップとマヨネーズをかけられる洗礼は酷いが、儀式を終えた後のシャワーの高揚感はもっと素晴らしい。留年生のベンアフレックは将来への不安からか暴力的なエネルギーがありあまっている。弁護士ではなくダンサーになりたいと、不良に喧嘩を仕掛けた真面目くんも良かったなぁ。赤毛の子とギラついたマシューマコノヒーが出会う車の窓越しの会話、女の子のぎこちない受け答えが初々しい。

最後に辿り着く薄暗い朝の道は一本道。死に向かう運命は避けられない。どこにも話の筋はない。だからこそ道中の一日一日が輝いている。

自分はここまでイカした青春は送れなかったけれど、散々飲んで喋った挙句デニーズで朝飯食べて帰るかーみたいな感じ。こんな曖昧な感触、時間がゆっくり流れる感覚?も再現出来てしまう、映画って良いメディアだなぁとじんわり感動した。タランティーノがオールタイムベストの一本に挙げているのも納得。

「名作を読めば心に残るけど、たかが喧嘩だもんな。みんな2、3年すれば忘れる」。切なくてとっても良いセリフだ。82点。
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