囚人13号

ジャン・ルノワールのトニの囚人13号のレビュー・感想・評価

ジャン・ルノワールのトニ(1935年製作の映画)
3.8
ネオレアリズモの先駆と評されてはいるがここに明確な意図があったのかは甚だ微妙であって、ロケーションが功を奏したとすればルノワールが積極的にスタジオの外に出向く契機となったのかという…これまた本人以外に知る由もない内的なものに限られる。
しかし女優を官能的に撮るということにかけてはサイレント時代から培ってきた名声のあるルノワールなので、凡庸な愛憎劇に陥りかねない物語で一つ肝となってくる女性の男を狂わせる性的な魅力というのはかなり良い。

田舎の草花や河などをフィルムに定着させていることも賞賛すべきなのだろうがまずドラマの核となってくる女優、彼女の服の中に虫が入った云々のやり取りがすげーあざといけど嫌らしさより感嘆が上回る。
サイレント時代において最愛の妻相手にはとうとう一度も成し得なかった映画的な倒錯を、ここで容易く達成してしまったルノワールの作家的軌跡が明確に見て取れる。
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