イチロヲ

山椒大夫のイチロヲのレビュー・感想・評価

山椒大夫(1954年製作の映画)
4.0
人身売買の被害を受けた貴族階級の兄妹(花柳喜章&香川京子)が、山椒大夫(進藤英太郎)の圧政に耐えながら、生き別れた母親(田中絹代)の捜索を遂行していく。森鴎外の同名小説を映像化している、ヒューマン・ドラマ。

いわゆる「人権を奪われた状態からの再起動」をテーマにした物語。溝口監督の人生観・死生観が炸裂しており、流れるようなシナリオ展開と芸術家肌の演出テクニックが縦横無尽にドライブしている。

この世は神も仏もないことを覚り、厭世家に変貌した兄が、紆余曲折の末に僧侶の支援を受ける展開が出色。貴族と貧民の立場が入れ替わる倒錯ドラマ、リベンジ劇のカタルシスなど、見どころは枚挙に暇がない。

青年期の兄が時代劇コントをしている志村けんに見えてしまうため、笑いを含んだ鑑賞を強いられてしまうが、作品の完成度の高さは保証済み。余談だが、原作の児童版ではネガティブ要素が排除されており、親子が元通りになってハッピーエンドとなる。
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