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風の中の牝鷄のleylaのレビュー・感想・評価

風の中の牝鷄(1948年製作の映画)
4.2
当時は失敗作とみなされ、小津さんも失敗と認めているらしいけど、すごく心に刺さった。どうにもならない夫婦の心情をあえて辛辣に描いている。メッセージ性も高いかなと思います。

小津さんらしくなく戦争の傷跡を色濃く残し、衝撃的な暴力シーンも出てくる。

昭和23年の東京、夫(佐野周二)が戦地から戻らず貧困な状況。妻(田中絹代)は息子の医療費を稼ぐために、一度だけ身を売りに行く。戻ってきた夫はその事実を知り、妻を許すことができないのだった…

妻は自分の行為を後悔し、夫は妻の行為が許せず、妻を許せない自分もまた許せずに苦しむ。

誰も悪くない、ただ時代が悪かっただけ。そこが切ないんです。  

「女に一体何ができる?」という時代。息子のために身を売った妻を、誰が責めることができるだろう。

当時の貞操観念を考えると夫の怒りも仕方ないし、妻に対して素っ気なかったり、暴力的なのもこの時代ということもあるだろう。

「あなたが泣いちゃ嫌です」という悲痛な妻の言葉が悲しい。田中絹代さんのけなげで不器用な妻の演技が光りました。

会社の窓から見えるダンスホール、小学校の裏にある売春宿、足を引きずり必死に階段を上る妻、抱き合う妻の祈りの手…いつもと違うけど、これもまた戦争を経験した小津さんの一面。印象的なカットがたくさんあります。

この翌年から紀子3部作などを撮っていくことを考えると、今作の意味は大きかったと思う。
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