【監督スティーブン・スピルバーグ】
　第24回監督作品
◆ジャンル: 　
　伝記・社会派ドラマ、サスペンス

〈見処〉
①スピルバーグ初「本格社会派」作品
・『ミュンヘン』(Munich)はジョージ・ジョナスによるノンフィクション小説『標的は11人 モサド暗殺チームの記録』を原作とした、2005年12月公開の社会派ドラマ映画。
・舞台は1972年のドイツ、ミュンヘンオリンピック選手村。パレスチナの過激派組織「ブラック・セプテンバー」がイスラエル選手団宿舎に侵入し、人質の全員死亡という最悪の事件が勃発。
・イスラエル政府は報復として、テロの首謀者11名のパレスチナ人の暗殺のため、諜報機関モサドは、実行部隊リーダーとしてアブナー以下５名のスペシャリスト(車両のスペシャリスト/スティーヴ、後処理のスペシャリスト/カール、爆弾のスペシャリストの/ロバート、文書偽造のスペシャリスト/ハンス)を召集。
・アヴナーら5人チームの任務は、人質事件の首謀者11名の所在を探し、暗殺することであるが、イスラエル政府には関係を及ばない行動を強く要求された。彼らはフランス人のルイという男に接触、情報を得ながらミッションを実行してゆくが、彼らも次第に追いつめられていくことになる…
・過去に『アミスタッド』『シンドラーズ・リスト』など、歴史的な事件をテーマに重厚なドラマを演出してきたスピルバーグにとって、現在社会が直面する題材による、初の本格社会派ドラマが本作である。

②9.11の影響
・人類史上最悪のテロ事件である、2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」により「テロリズムとの対決」「イスラム原理主義への不信感」「安全保障に対する価値観の変化」など、人類の価値観が大きく変わったことは云うまでもない。
・事件当時のスピルバーグは『マイノリティ・レポート』と『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(ともに2002)を並行して製作している最中であったが、次第に9.11の影響に直面していく。
・『ターミナル』(2004)では、セキュリティ観点から、空港での撮影が不可能となり、空港ターミナルを全てセットを構築し、映画製作することを余儀なくされる。
・トム・クルーズのスケジュールの空きを活用するために急遽製作が決まった次作『宇宙戦争』(2005)では、当時の世状を反映するために、ジャンボ機の墜落場面など、9.11を想起させる映像を加えている。
・さらにスピルバーグは「イスラム/アラブ世界との対立」「敵と味方の曖昧な境界線」は描くために本作の製作を決断。彼の作品として、初めて政治メッセージ～報復は負の連鎖を招く～を含む内容となっている。ラストシーンの遠景にワールドトレードセンターが見えるのは、9.11に対するメッセージを伝えるためのもの。
・しかしながらユダヤ系アメリカ人として『シンドラーズ・リスト』など、ユダヤ寄りのスタンスを示してきたスピルバーグに対して、本作の描写が中立的であるとして、イスラエル/ユダヤ人とパレスチナ/アラブ双方から、激しいバッシングが巻き起こることになった、スピルバーグ最大の問題作である。

③エリック・バナとダニエル・クレイグ
・イスラエルの実行部隊の中核メンバーを演じた、同じ1968年生まれのエリック・バナとダニエル・クレイグ。
・２人のハリウッド進出時期はほぼ同じであるが、オーストラリア人のバナは『ブラックホーク・ダウン』(2001)、『ハルク』(2003)、『トロイ』(2004)と大作・注目作に連続して出演。本作時点では、主演俳優のポジションを掴んでいる。
・一方のイギリス人のクレイグは『トゥームレイダー』(2001)や『ロード・トゥ・パーディション』(2002)など、徐々に注目される存在にありながら、本作時点では、大作の主演レベルの格付けには至っていない。
・本作公開当時の時代背景は「9.11」、『ボーン・アイデンティティー』(2002)の成功により、アクション・サスペンスに対するリアリティーが要求されだした時代。
・俳優のキャラクターに沿った本作の配役のとおり、甘くナイーブな内面が見てとれるエリック・バナは、その集客力もあって、本作以降、徐々に主演クラスから脱落していくのに対して、寡黙で武骨なイメージのダニエル・クレイグは、将に時代が求めていた俳優像に合致。
・ときはまさに007シリーズ21作目となる『007／カジノ・ロワイヤル』(2006)に向け、6代目ジェームズボンドをキャスティングの最中。
・「200人の候補名」リストのなかには、エリック・バナとダニエル・クレイグの両名も含まれていたが、9.11の影響を受け、「21世紀が抱える問題を反映した、現実的なボンド」のイメージにあったクレイグが大抜擢された。
・9.11がなければ、ジェームズボンドは、両名逆のキャスティングになっていた可能性も否定出来ない。

③結び…本作の見処は？
○: オリバーストーンさながらの重厚な社会派作品。「おとなしめ」「現代ヨーロッパが舞台」と普段では見れないスピルバーグの演出が見れる。
○: フランス人の情報屋の親子の謎めいたキャラクターが魅力的
○: リアリティの高い実行場面の演出は15年以上前の作品には見えない。
○: エリック・バナとダニエル・クレイグのキャリア分岐点となった作品として、押さえておきたい。
▲: 上映時間が長く、ジョンウィリアムズの劇中曲も控えめにて、寝落ちリスクが高い。
×: ラストシーンは、ドラマティックさを感じさせない「尻切れトンボ感」が強い。

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スピルバーグ作品のなかでは、トップ級のおもしろさ。


1972年、ミュンヘンオリンピック開催中、イスラエル選手団がパレスチナ系テロリストに襲われ、殺害された事件あり。

その事件そのものでなく、イスラエル政府が企図した報復作戦を描いた映画です。

ジョージ・ジョナスのノンフィクション『標的は11人 モサド暗殺チームの記録』が原作。


主人公は、イスラエル諜報特務機関モサドのアヴナー。

アブナーは、イスラエル政府より、殺害された11人と同数のパレスチナ側精神的指導者11人の暗殺を命令される。

表面上、アブナーはモサドを退職したことにされ、その他のメンバー達と合流した。

暗殺チームのメンバーとして、運転、爆発物、証拠隠滅、文書偽造などそれぞれのプロフェッショナルが集められていた。

かくしてミッションは開始されるが、そうそうスマートにはいかない。

各分野のプロとはいっても、チームメンバーは全員素人くさい。

チームは、ドタバタしながら、暗殺を遂行していく（現実はこうなんでしょう）。

危うく一般人を巻きこみそうになったり、ターゲットにほだされたり、目的や意義そのものに疑問を持ち、葛藤を抱いていく。

暗殺が成功するにつれ、KGBやCIAにも知られることとなり、事態はさらに複雑になっていく。

また、面割れしてチームメンバー自体が狙われるようになる。

彼らが暗殺のターゲットになってしまっていた。

見え見えのハニートラップに引っかかったりで、チームメンバーが1人1人殺されていく。

アブナー達は、自分たちも所詮使い捨てのコマだったことに気づく。

アヴナーは身分を変えて、アメリカのニューヨークに潜伏することになる…。

アメリカの当局職員と会う場面の後ろに、ワールドトレードセンターが映るという象徴的シーンで映画は終わった。


本作公開の後、様々な論議が巻き起こったのを覚えています。

特に、イスラエルなどユダヤ人からの反発が強かったと報道されてました。

イスラエル国家の置かれた状況をスピルバーグは理解していないとか、

テロに対するスピルバーグの考えは甘いとか、

テロへの批判よりも、報復への批判に偏りすぎているなどなど。

確かに、テロへの対処に正解はないのかもしれません。

いずれにしても、不謹慎ながらエンタメとしても社会派としても素晴らしい作品だと感じました。

長い映画はなかなか迂闊に手が出せない。
これも随分寝かせていた作品。

スティーヴン・スピルバーグ監督の作家性が際立つ、エンタメ要素を極力削いだ重厚な味わい。

1972年に起きたミュンヘンオリンピック事件と、その後のイスラエル諜報特務庁（モサド）による、テロ組織「黒い九月」に対する報復作戦を描く。

1972年9月5日、ミュンヘンオリンピック開催中に、パレスチナの過激派組織「黒い九月」のメンバー8名は、イスラエル選手団宿舎に侵入、抵抗した選手ら2人を殺害し、残る9人を人質に取り、イスラエルに収監されているパレスチナ人の解放を要求した。人質は全員死亡という最悪のシナリオとなったこの事件の報復として、テロの首謀者11名のパレスチナ人暗殺計画の実行部隊のリーダーとして、アヴナー（エリック・バナ）が選ばれる。

平和の祭典である筈のオリンピックで流された血の重み。これはなかなか骨太な印象。

イスラエル当局の説明によれば、アヴナーら実行部隊のメンバーは、雇用関係はなく、保険や補償も一切無し。いわゆる、「当局は一切関知しない」、影の組織。アヴナーに作戦を指示する、モサドの上官エフライムを演じたジェフリー・ラッシュの存在感が際立つ。

実行部隊はアヴナー以外に、南アフリカ出身の自動車のスペシャリストであるスティーヴ（ダニエル・クレイグ）、爆弾製造を担当するロバート、現場の「掃除」係である年長者のカール、文書偽造の専門家のハンス。

おおー！！
スパイものにダニエル・クレイグ！！
これはもう完全に007！！
前髪を下ろしているので、ルックスの印象は違えど、車のバックミラーでダニエル・クレイグの瞳だけが映ると、それはもう完全にジェームズ・ボンド！！

それにしても、スピルバーグ監督、よくも悪くも手を抜かない。テロの首謀者を爆弾で一人一人暗殺していく様をきっちり丁寧に描いていく。

携帯電話もない時代。
ターゲットが住む家に爆弾を仕掛けに行き、電話やテレビやベッドのマットレスに爆弾をせっせと仕込み、無線で起爆するまでのハラハラドキドキ感は堪らない！！

スリリングな暗殺劇は、見応えはあるものの、遊びの部分がないので息が詰まりそう。実行部隊もおじさんばかりなので、リアルなんだけどエンタメ性には欠ける。

最大の黒幕である「サラメ」にまで迫り、テロの首謀者らを追い詰めていた筈のアヴナーらも、逆に存在を知られ、仲間を次々と暗殺され、彼らもまた次第に追い詰められ、疲弊していく。

もう、後半になるとエリック・バナの疲れた顔が映るばかりで、観ているこちらもなかなかしんどい。

総評としては、真面目なスピルバーグが徹底的なリアリズムの元に作り上げた大作で見応えは十分なものの、観るにはなかなかの覚悟も必要な長さと重さと言ったところ。中盤の暗殺を少し走り気味の編集で見せても良かったかも。

• #2020akirunaway