カトゥ

神聖なる一族24人の娘たちのカトゥのレビュー・感想・評価

神聖なる一族24人の娘たち(2012年製作の映画)
4.8
可愛くて怪しくて、他に類を見ない作品。
旧ソ連領のマリ共和国を舞台に、24人の女性が登場する連作。
 
いわゆるフォークロア調というのか、大昔のクウネルとかに取り上げられそうな「真っ白い麻布に伝統的な刺繍」を纏った(たまに纏わない)女性達が住む、古い土地を様々な観点から描いていく。ロシア好きはもちろん、チェコの雑貨などを好む人も、たぶん気に入る。絵本専門店に通う大人向け、という気もする。
といってもお上品な作品ではなくて、かなりのエピソードが“性”に関するものであり、登場する人達も性的に大っぴらというか、僕達の日常感覚とはズレている。笑いのつぼ、もまた変なところで違うし、つまり感情移入を阻む映画ではある。
 
だから楽しめないかというと、これがめっぽう面白いのだから、困る。
世界には感情移入できなければ駄目、という映画もあるようだし、どうやらそういう考えを持って映画館に趣く人も(レビューサイトを眺める限りは)ずいぶん多い様子。確かに物語りの取っ掛かりとして感情移入度の多寡は大切かもしれないけれど(文章書き指南書にも大抵書いてある)、フィクションというのは“個別の物語”であって、とうてい理解できない世界と登場人物であっても、得られるものはきっとあるのだ。
見た目や匂いだけで食事を「食べられない」と決めつけてしまう人は、つまりは「食べたくない」というだけ。そんな壁を越えてこそ、あるいは壁をこそ楽しめるようになって初めて出会えるものが食事にも文化にも、もちろん映画にも存在する。
 
いくつかのエピソードは、劇場内で笑いが起こっていた。なんだか気まずくてどう反応していいかわからない、そんな場面もいくつか。エンドクレジットを眺めて、外に出た時の、世界がふわっと変わったような感じは、ちょっと特別だった。
 
自宅で(例えばレンタルで)観るのならば、夜中に楽しんで、その後にちょっと外を散歩してみたらどうだろう。世界が変わって見えるのではないか。
 
 

性と裸を奔放に描いた果てにある力強さ。なるほどエロスはタナトスと対になるのだな、と思わせてくれる。そして、スラブ世界の奥深さも。いつもと違うヨーロッパと中央アジアの混淆は、刺激的だがほんわりと温かく、何か得体の知れないものを心に残す。
お薦めしたい人を選ぶ、しかし紛れもない良い映画でした。
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