月うさぎ

大誘拐 RAINBOW KIDSの月うさぎのレビュー・感想・評価

大誘拐 RAINBOW KIDS(1991年製作の映画)
4.5
天童真の原作小説「大誘拐」(1978年)が最高に大好きです。全ての人に読んでもらいたいのですが、この映画もいいですよ。
いきなり始まる「出直しブルース by憂歌団」
100%昭和なブルースバンド。渋すぎるチョイス!
刑務所を出所する時に車の迎えが来るシーン。もしかしてブルース・ブラザーズ、意識してますかね!?

紀州の山持ちの超資産家の老女が誘拐された。
人徳も篤く人々に慕われる地元の名士であるとし子刀自の身の安全は?
…という心配はあっという間に覆される。
身代金100億を要求するという前代未聞の大事件を仕切るのは被害者のとし子。マスコミを使って全世界の注目を集める狡知に長けた犯罪の真の目的は?そして犯人の虹の童子の素顔とは?

ストーリー展開が大胆で予測不可能。柳川家の当主の人間力が半端ない。その上で、国家権力の非情への反発と反戦の心を語りかけて来ます。愛国心とは何か。彼女のようにお山を愛し守る心こそが根本なのではないでしょうか?本当に傑作ですよ。

82歳の柳川とし子を演じた北林谷栄さん。この方のための映画だと断言しましょう!何度観ても素晴らしすぎ!
リメイクドラマが作られようと、彼女の演じる刀自の品格と可愛さとのほほんとした表情の裏に秘めたキレ物の頭脳と迫力を感じさせることのできる人は存在しません。

和歌山県警本部長役の緒方拳も大好きな役者さん
猪狩さんは原作ではもっと無能なんですが、警察側にもヒーローを持ってくるのは映画の観せ方として正解だったでしょう。
でも本当は国家対一個人の闘いなのでね。警察にいい人がいると困るんですよ。現にわざと騙されたみたいなオチにしてましたよね。彼が県警本部長という設定も嘘くさい。県警トップはエリート官僚で基本他所者ですから、猪狩さんは地元刑事でないと…

樹木希林も彼女ならではの存在感でくーちゃん役をこなしており、妙な笑いと説得力を与えています。

風間トオルはじめ犯人たちの演技は今一つと言われていますが、原作小説の設定がド田舎の若いチンピラで、甘いキャラなんですよ。持っているのはとにかく底辺の犯罪者として生きるしかない人生から逃れたいという切実な一念だけ。
おばあちゃんに振り回される感や、人懐っこさ(愛に飢えている)を表現するには即効性という観点からお子ちゃま顔の彼らのキャスティングも悪くない選択だと言えるでしょう。

この映画は時代的には現代では成り立たない。携帯もGPSもない時代でないと。アナログな放送中継車も必須。
そして、柳川刀自が戦争という国家犯罪の被害者である事が最重要なのです。彼女が生きてきた半生の中でどれ程の深い想いを持っているか。それを考えて欲しい。
ユーモアたっぷりのコメディーでありながら、物語はとても重く深いテーマを持っています。
しかし観終わって温かい気持ちになれる素敵な映画です。
多くの名優さん達がもう鬼籍にはいっていることを思うと寂しいけれど貴重な作品でもあります。お勧め。
月うさぎ

月うさぎ