ドライヴ
日陰で不遇の人生を送ってきた逃し屋の男が、運命と感じられる女と出逢い、愛した。
同じ女を愛した夫とその息子の未来のために、命を賭けて協力したが、夫は死んだ。
幸せだった束の間に別れを告げ、愛する女のために命を捨てに行った。
男の生き様として、此れに過ぎたるは無いだろう。
ライアン・ゴズリング君は、その複雑で繊細な男の心の機微を、無表情と最小限の台詞によって見事に演じていたよ。
そして、他人の妻であり、他人の子どもである愛する者たちのために死にに行く男の、切なくも幸せな想いを、彼はその無表情に浮かべる仄かな笑みのみで語っていた。
私が思うに、ゴズリング君主演の映画の中で、彼の演技法が最も輝いている作品なのではないだろうかね。
彼はいずれの作品においても、無表情という技法を貫いているが、全ての場面においてそれが生かされるわけではないようだな。
本作は、我々鑑賞者が、彼の無表情から全てを読み取ることで、より深く、より本質的なテーマを感じ取ることが出来るように私は思うよ。
本作の終焉を観て私が感じたこととしては、トム・クルーズ主演の『オブリビオン』の裏返しのようだったな。
自分が心から愛する女を、同じく心から愛した男であれば、自分が守ってやれなくとも、それで良い。
だが、その男が死んだ時、代わりに命を賭けることが出来るのは自分だけである。
とても複雑で、とても繊細な男の心理を、本作は見事に描いていたように思うよ。
とても素晴らしい映画だったよ。
ありがとう。