藻尾井逞育

九月に降る風の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

九月に降る風(2008年製作の映画)
4.0
「何が言いたいんだ。タンは親友だぞ」

1996年、台湾の新竹。真面目な高校生タンは、男気あふれるリーダー格のイェンに憧れを抱き、彼の恋人ユンに想いを寄せている。だが、ある出来事をきっかけにタンとイェンの友情に溝が生じ、やがて悲劇が起きる。

原題の「九降風」とは、新竹市に旧暦の9月に吹く季節風のことだそうです。日本とは違い台湾では6月に卒業式を迎え、7月1日から8月31日までが夏休み。以前はその間に統一試験を受けなければならなかったそうです。そして9月、入学シーズンを迎え、この時期の風物詩「九降風」が日本の桜のように青春の新たな旅立ちを象徴しているそうです。
学校の問題児たちではあるけれど、学年も跨いで友情を育んでいた彼ら。固い友情であったはずなのに、次第にさまざまな出来事からお互いに溝ができ始め、やがてぶつかり合うようになってくる。まだ大人になりきっていない不器用で純情な彼らだから、心の中では友達のことを思っているのにうまく立ちまわることができないでいる。学生時代の友情、恋愛、人間関係って、純粋だからこそこんなにも脆く繊細で壊れやすく、同時に尊くもあるんですね。何があっても、何を言われても、「親友だぞ」の一言で全てを受け入れたイェンはさすがみんながリーダーと認めただけのことはあります。
この映画の舞台となる1996年頃、台湾プロ野球は黒社会との関係が露呈して、社会的に相当非難されていたようですね。また翌97年にはこの映画のエンドタイトル「我期待」を歌ったチャン・ユーシャン(張雨生)さんが自動車事故にあい亡くなってます。張雨生さんは帰ってきませんが、ご本人役で登場している、当時辛い思いをした台湾プロ野球のスター、リャオ・ミンシュン(廖敏雄)さんはこの後見事な復活を遂げます。また台湾プロ野球もイメージアップを図り、リンシャンちゃんやチュンチュンちゃんといったチアたちの活躍もあり、誰でも楽しめるよう人気復活しました。あの頃の彼らの友情もまた蘇ってくるのを期待してしまいます。

2024/04/03
台湾加油!