岡本喜八監督・脚本によるこれもれっきとした反戦映画。監督自身の戦争体験を素にしていながら、とってもシュールでシニカル。
ジャケ写を見ていたら、もうアレにしか見えなくて、えっと、アレですよね?コレ。
学徒動員で士官候補生として訓練を受け、爆弾を抱えて戦車に突っ込む特攻兵に選ばれた"あいつ"(寺田農)に与えられた1日の休暇。短い青春、そして突如訪れる終戦。
およそ戦争には不向きに見える、理数系で理屈屋な"あいつ"。
そこに敵の姿はなく、彼が出会う様々な人々との交流を通して戦争の愚かさを皮肉たっぷりで描く、何だか滑稽な作品。
ムスカ大佐の声で有名な寺田農だが、本作でもその声の良さが印象的。観終わって暫くしても、彼が脳内で語り掛けてくる錯覚を覚える程に、よく通る声だし、耳馴染みが良い。
お前は豚だ。
自分は牛であります。
反芻して見せる"あいつ"。
上官役の田中邦衛もびっくりである。
肉弾になって、死ねば神になれるらしい。いや、それより人間の方がいい。そんな彼は豚だの牛だのと呼ばれるねずみ。
女郎屋で一目惚れした女学生=うさぎ。そんな女学生と童貞が捨てられると夢を見たのも束の間。現れたのは前掛けのおばさん。そらそーだろうよ。
そんなねずみとうさぎの恋物語。
因数分解を解いて高まる恋。
何だかわからんが、凄く盛り上がる2人。
両腕を失くした古本屋の主人(笠智衆)や、「ニッポン、良イ國、清イ國」と音読する海辺の少年。"あいつ"が出会う人々は、明るく笑っていても、そこには戦争の影響が見え隠れする。
直接的に戦争を映すのではなく、喜劇の中に反戦のメッセージを忍ばせる。
うさぎ+ねずみ=ゼロ。
突き詰めればゼロ。
戦争はゼロ。
バカヤロー!!
昭和43年。
"あいつ"の最期がまた虚しい。
幕切れのセンスの良さよ。
間違いない。
戦争ほど愚かで間抜けで無意味で虚しいものなどない。