ひこくろ

大阪物語のひこくろのレビュー・感想・評価

大阪物語(1999年製作の映画)
4.0
どう捉えていいのかわからない、とても不思議な映画だった。

冒頭、若菜がカメラに向かって話しかけてくるところから違和感ははじまる。
これは誰に向けた物語なのか。観客はどの立ち位置にいればいいのか。
観ていてもそれはわかってこない。

話はかなりシビアなのに、どことなくとぼけてもいて、なんというか全体的に飄々としている。
だからといって、コメディという感じでもない。
やたら騒がしいのに、なぜかもの悲しさが常につきまとっているのもそう。

映画の作りも登場人物も街の様子も、何もかもが二面性というか多面性を孕んでいて、それが映画に独特な雰囲気をもたらしている。
答えや正解はあるように見えてなくて、ないように見えて、でもある、みたいな感じだ。
そして、その感じはかなり異質なんだけど、だんだんと映画の雰囲気として受け止められてくる。

なんて言えばいいんだろう。
描きたいものをそのまま捉えるのではなく、いろんな角度から違う面をさまざまに捉えて、周囲から本当の姿を浮かび出させようとしている、という感じだろうか。
だから、ずっともやもやするし、でもなぜか納得もする。

これが映画デビューとは思えないほどの池脇千鶴の圧巻の演技が、その多面性に拍車をかける。
上手い女優さんだけど、この若さでここまで豊かな演技をしていたのには驚いた。

大阪という街や、そこに住む人たち、生活は、猥雑で混沌としていて、なのに何か核があると、市川準は感じていたんじゃないかと思う。
それがそのまま映画になっているように強く感じた。
やっぱりとても不思議な映画だった。
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