革芸之介

トリコロール/白の愛の革芸之介のレビュー・感想・評価

トリコロール/白の愛(1994年製作の映画)
3.9
昔はキェシロフスキって苦手だったんですよ。「映像は綺麗だけど、なんかオシャレ欧州恋愛映画みたいな雰囲気が、なんかなぁ・・・・・」ってな感じで。

しかしその後、私自身の映画の見方も変化し、照明や光を意識し、画面の細部にまで神経を研ぎ澄ましながら映画を観るようになり、「うわぁ~キェシロフスキ凄い」って気づいた。

ちょうど今から20年前の1996年3月にお亡くなりになられたキェシロフスキ。しかし54歳での死は早すぎるよなぁ。でも私は、これからも残された作品を見続けるぞ。

で、トリコロール三部作の二作目。ツンデレなジュリー・デルピーが主人公と思いきや、なんと序盤と終盤にしか出てこない。真の主人公は夫役のカロル。しかし凄いボンクラ感が満載なダメ男。
最初の裁判所でジュリー・デルピーから「夫が性的不能で離婚したい」って言われちゃいます。もう!ジュリー・デルピー相手に性的衝動が発動しないなんて男としてダメだろ。

しかし、ここからまたカロルと偶然出会ったミコワイの熱い男の友情物語に変貌する。オフビートコメディタッチな微妙な笑いもあり、ちょっと異色作。

とにかく、キェシロフスキは薄暗い室内での画面の撮り方が異様に上手いのと美しい。例えば序盤のジュリー・デルピーの美容室でのシーン。部屋の明かりはついていないが窓から光が差し込む部屋の中での、ジュリー・デルピーの顔にあたる照明の素晴らしさ。影の黒さとジュリー・デルピーの透き通るような肌の白さのコントラスト。

終盤、ジュリー・デルピーとカロルがお互い肉体的に裸で愛し合うシーンの二人の濃密な「接触」も感動的なのだが、本作最大の見所は、むしろ二人が「接触」しているよりも、肉体的には遠く離れた状態の「距離感」こそ皮肉だが逆説的に二人の愛を表しているのではないか。

双眼鏡を使い、夫のカロルがジュリー・デルピーを見る印象的な場面が二回ある。葬式とラストシーンだが、結局本作はこの双眼鏡で「見つめる」という行為と二人の「距離感」を一番描きたかったのだろう。
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