荒澤龍

タクシードライバーの荒澤龍のネタバレレビュー・内容・結末

タクシードライバー(1976年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

・Jazzがニューヨークの都会感を演出しつつ、
 トラヴィスの不穏感も漂わせている。
・トラヴィスの笑顔に違和感というか嘘くささ、
 疲れと狂気が見え隠れするのが、映画にずっと
 暗雲を漂わせている。
・またトラヴィスの狂気に堕ちる前の寛容さが達
 観視しすぎており、人生への疲れと絶望を感じ
 る。

・歴史的背景を考えるとトラヴィスの心情理解が
 深まる。1976年に公開されたこの映画は1975
 年に終戦したベトナム戦争で戦ったトラヴィス
 が主人公である。
・ベトナム戦争は10年近い長期戦でアメリカが
 唯一負けたとされる戦争であり、アメリカが支
 援していた南ベトナムが優勢であると思われて
 いたが、私服で闘う民間人、いわゆるベトコン
 などに惑わされ、思いがけず長期化したとされ
 る。
・トラヴィスは10年近く長期戦で完全に疲弊
 し、ベトコンなどで民間人などにも懐疑心を持
 つようになっていたのではないか。
・そんな精神状態に不眠症が重なり、ニューヨー
 クの退廃的で、一方では見方を変えれば自由に
 過ごすいわゆるヒッピーのような市民にある種
 の羨望と嫉妬心を徐々に募らせていったのでは
 ないか。
・またトラヴィスは戦争時に我慢せざるを得なか
 ったと思われる女性に異常な執着を見せてい
 る。これはタクシー内でアベックなどを追う目
 線、習慣的なポルノ映画、映画でのロマンチッ
 クな演出への嫌悪感の表出などに現れている。
・トラヴィスの「真面目すぎる」性格が重なり、
 歪な正義感を発揮し物語が展開していく。
・戦争によって街と時代の倫理観に適合できてい
 ない。

・トラヴィスはベトナム戦争の敗戦をどこかで引
 きずっており、ささやかでも誰かの英雄になり
 たかったのではないか。これはsportsに「イ
 カれてる」ということを否定された時の反応や
 白馬の王子のような陶酔しきった女の口説き方
 から垣間見える。
・トラヴィスは最後のアイリスを助ける一幕で世
 間の大きな話題をさらい、少なくともアイリス
 の家族から英雄視されたことにある程度の自己
 肯定感を得た。だからラストシーンでべツィが
 タクシーに乗り込み気のあるそぶりを見せた
 が、呆気なく無視出来たのだと思う。

・この物語を自分に置き換えると、自分が苦労し
 ている時に、余裕綽々と暮らす人や悪行などで
 人生の近道を使いショートカットしようとする
 人を見かけたら、多かれ少なかれ、トラヴィス
 に似た醜い感情が沸き出るものではないかと考
 えた。
荒澤龍

荒澤龍