藻尾井逞育

憲兵とバラバラ死美人の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

憲兵とバラバラ死美人(1957年製作の映画)
3.5
「悔しいだろう。犯人は必ず挙げてやる!」

主力が満州に出動した後の仙台歩兵第四連隊の炊事場付近の井戸から、首と手足のない、胎児を身籠った女の死体が発見された。東京から小坂憲兵が調査に赴き、死体が陸軍病院でバラバラにされたことを突き止める。

映画の内容より前に、まず題名がとんでもなく煽情的で過激ですよね。一般市民から煙たがられる憲兵と◯◯な死美人を組み合わせたこのタイトルを聞かされただけで十分お腹いっぱいになりそうです⁈最初題名だけ聞いて、憲兵がバラバラにしちゃうのかと思ってしまいました⁈もっとグロテスクホラーに持っていけるところを、いたって真面目に骨太なミステリーとして展開されています。死体の描写もできるだけ避け、井戸の水が臭っていることで事件の凄惨さを想像させます。さらにそれに飽き足らず、上官に命じられその水で炊いたご飯を泣く泣く食べさせられたり、ホラーとコント、恐怖と笑いが表裏一体でもあることを描いてみせます。
話は仙台の憲兵隊と東京からの憲兵の二手に分かれて進行していきます。仙台の憲兵隊は、自分のところで起きた不祥事は自分たちで始末すると息巻いて、警察の介入も阻止します。恫喝と拷問だけの横柄な取り調べで一向に捜査は進行せず、ここで井戸のまわりをうろついていたばっかりに目をつけられてしまうのが、後に"色悪"の代表取締役となる天知茂とは何という皮肉でしょう⁈この映画では軍用品を横流しするようなまだまだ小悪党で、極悪非道、大胆不敵な"色悪"にはまだまだおよびません⁈一方、東京からは中山昭二扮する憲兵がやって来て、温厚に警察とも協力しながら遺留品と状況証拠から真犯人に迫っていきます。黒猫に導かれるようにして古井戸に辿り着くと…。話は戦前のことですが、一歩間違えば現代でも思い込み決めつけの捜査で冤罪が起きています。こうした権力に対する自戒と警鐘をこの映画は呼びかけてもいるようです。頑張れ、キリヤマ隊長!