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アメリカン・ビューティーのNMのレビュー・感想・評価

アメリカン・ビューティー(1999年製作の映画)
3.8
アメリカン・ビューティー。バラの品種名でもある。
アメリカの美という皮肉めいたタイトルでありながら、実際はアメリカが内包する闇のお話。
もちろんアメリカのみならずどの国にも似たような点は多い。

平凡で気弱な男・レスターは、ある日から人が変わったように自分の行動に確信を持つように。何となく良いことのように思えるが、実は終わりの始まり。
自分を抑えることで成り立っていたそれまでの人生は、突然態度を変えても成り立つはずもない。再構築する間もなく、あっという間にあちこちが崩れていく。
必ずしも自分の思う通りに行動することが正解とは限らないという教訓。

妻キャロラインは、もとは恐らく努力家のお嬢様だったけど、自分に鞭打って強くなろうと振舞ううち、いつの間にか周りより自分のことばかりを考えるようになってしまった。
本当は泣き虫だけどその顔は誰にも見せず、自分に厳しく他人にも厳しい。だけどなかなか満たされずずっと苦しい。
それを、自分が理想とかけ離れているのは他人のせいだと思い込む。
これは変身後のレスターとある意味で似ている。二人は結局似た者同士になった。

隣に越してきた青年リッキー。
その若さにして強くて賢いあまり、両親の問題を知りつつも従うふりをしている。
両親も薄々感じているが気付かぬふりをしている印象。
母は何かしらの痴呆的症状を見せているが完全に自己喪失しているわけでなく、特に最後のシーンなどはどことなく深い悟りと愛情と強ささえ感じる。
リッキーは両親を騙しコントロールしているつもりだったかもしれないが、実は自分の中にたまっている反抗心に気付いていなかったのかもしれない。
達観したつもりでも本当は普通の青年並みに不満や孤独があった。爆発したところで何の不思議もない。

その父フランク。
息子の前では取り繕っているが、自分の唯一の持ち物である暴力でしか息子に対抗できていない。それは子どもが成長した時点で無効になる手段。彼も本当は弱く、軍でもずっと取り繕って生きてきたのだろう。大佐になるほど努力したが、彼もまた恐らく理想とは違う人生にたどり着いた。
泣きながら折檻する様子は、殴られる息子も同情するほど惨めで悲しい。だがお前のためという言い訳は典型的DVでしかない。

彼の性趣向については推測しきれなかった。
ずっと同性愛者だったがそれを隠して生きてきたのだろうか。だとするとゲイカップルに対して、パートナーというと仕事の?と質問したのはすっとぼけと言うことになる。あまりそうは思えない。
ということは、息子のことを勘違いしたのをきっかけに、自分の一番嫌うはずの同性愛に目覚めたという可能性も高い。
だから、自分のことをゲイにした相手を憎んで、消した。

美少女アンジェラ。周りの目は引くものの、その先に進みそうになるとすぐ身を引いていたのだろうか。かわいいだけで普通の女の子だけど、自分は平凡ではないと思いたいあまり、ああいう態度でいたのだろう。
ジェーンの方が先に恋愛を始めるとやっきになって否定する。

平凡に生きるのも、やりたいことをやるのも、難しい。
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