「病院坂の首縊りの家」と呼ばれる古い館に、人間の生首が風鈴のように吊るされるという猟奇事件がぼっ発し、やがてそこから次々と惨劇が繰り広げられていく。
市川崑×石坂浩二コンビの金田一シリーズ最終作。
古い病院跡につるされた生首。
いわくありげな美しい母娘の、血で血をあらう悲劇の物語。
たぶん、どろどろとした人間関係と、その忌まわしい過去を背負って犯罪を犯す犯人の純粋で美しい心情に、中学生時代にハマって、殺人シーンのグロテスクさと血みどろの殺人シーンが、自分の好きな映画の傾向をほぼ決めてしまったのかも知れない横溝正史作品。
犬神家…があまりにも有名で、案外この作品、地味なんですかね。
『犬神家の一族』は春、きらめく湖畔での殺人を描き、『悪魔の手毬歌』は冬、人里離れた寒村での殺人を描き、『獄門島』は夏、輝く瀬戸内海での殺人を描き、シリーズは終了予定であった。
が、興行的にも成功したため、『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』とシリーズはつづいた。
『女王蜂』『病院坂』ともに、評価は低い。
が、『病院坂』には大好きなシーンがある。
蒼い夕暮れの街を黙太郎青年と歩く金田一。
そこで金田一は自分の生まれた故郷を想い、また「この事件の犯人は、ぼくと同じような生い立ちの人ではないか」と言い、犯人に対して情をかいまみせる。
シリーズ中でも、異色のシーンといえよう。
ラスト、坂の上に立つ金田一が、マントをひるがえして歩いていく。
シリーズ最終作にふさわしい金田一の最後のシーン、と私は思っている。
当時は、最終作のこれをそれほど面白いと思わなかったが、佐久間良子の複雑な血縁ある桜田淳子への愛情と、その忌まわしい過去にちょっと泣いてしまった。
桜田淳子が、アンニュイな感じの存在感でいい味を出していて良かった。
そして、最後の最後は横溝夫妻。
映画の雰囲気をぶち壊しにするどころか、素敵なラストシーンに仕上がっている。