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路上のソリストのodyssのレビュー・感想・評価

路上のソリスト(2009年製作の映画)
2.5
【現実の厳しさ】

評価の難しい映画ですね。実話に取材しているらしく、予定調和的な方向をとらないからです。

人間の才能をどう受け取るか、という根本的な問題がここにはあります。フィクションとしての映画だと、才能はあるけど恵まれない境遇でそれを活かしきれていない人物が発見されて、善意の人(びと)がそれを支援して才能を開花させる、という筋書きでだいたい行くわけです。

ここではそううまくことが運びません。いちおう精神的な病気のせいとされているようですが、私には、彼の才能と精神面の問題性はもしかしたら一体なのかもしれない、と思われたのです。というか、そういうふうに描いていたら、まだしも説得的だったろう、ということなんですけどね。この作品では、彼の病気の描き方が不足していて、そこが惜しい。

他人の生き方を変えさせるのは、実はものすごく大変なことです。それは、単にチャンスを与えるとか、足りないカネを工面してやるとか、励ましてやるとか、いい教師を斡旋紹介するとか、そういうことで済むものではない。なぜなら人間の生き方は、その才能だけではなく、彼のメンタリティ、人間関係、生来の感受性、生まれ育った社会や家族の環境、などなど複雑な様子が絡み合ってできているからで、たまたま出会った人間が善意で何かをしてやったからそれでころっと変わるといったものではないからです。仮にころっと変わったら、むしろおかしい。

そういう意味では、主人公の努力が○○する本作はリアリティはある。だけどそれが映画としての充実感につながっているかというと、どうも違うような気がする。『奇跡のシンフォニー』みたいなメルヘンちっくで都合良く筋書きが運ぶ映画にしろとは言いませんが、最後で彼に理解を示されて終わるところが、どっちつかずで、「うーん」なのです。下手に繕わないで、○○して終わりました、というなら、それはそれで一品だと思えるのですけれど。
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