囚人13号

アエリータの囚人13号のレビュー・感想・評価

アエリータ(1924年製作の映画)
3.7
『月世界旅行』から僅か20数年後、人類はついに火星探検へ、モンタージュという最新の装備を整えて出発する。

本作はSFでありながらやはり時勢が大きな影を落としていた。レーニンの死後、独裁政治から共産主義へ向かいつつあったこの国の思想の素晴らしさを『アエリータ』は力説しており、それは未だ権威主義真っ只中の火星を10年前の自国であるかのように見立て、盲目な火星人にソビエト国民が直々に共産を啓発するのである。
地球にも火星にも夫の居ぬ間に浮気する妻はいるのだろうという対比は面白いがやはり火星のアヴァンギャルド的、ロシア構成主義に彩られた美術が一際目を引く。
地下で労働者が肉体労働を強いられている設定は『メトロポリス』を想起するし、キュビスムの如く歪んだ扉や地球を覗き見る奇妙な装置は『カリガリ博士』に代表されるドイツ表現主義の影響も受けていたような気もする。

主人公の妻が徐々に別の男に溺れていく様や刑事ものを模倣した追跡劇(変装等)が重要でないのであり、火星のセットや妄想と現実の境界線が曖昧となる終盤は興味深い。演出も面白く、クレショフ効果を意識した人物のアップや主人公が逢びきをしている男女の影を目撃する瞬間と激情に駆られて銃を取り出すまでのスピード感、ここだけ切り取ればフィルム・ノワールのよう。

あと批判も含めたメッセージ性をいくらでも盛り込むことができたエイゼンシュテイン・モンタージュについて、例えば本作には突如ハンマーを持った男の手元が出現し、金の槌と五芒星でソビエト国旗を完成させる=大衆を煽るメッセージが確認できるが、現代人からすると物語の饒舌さどころか逸脱しているようにすら思える。

そうした意味ではクレショフ効果とエイゼンシュテインのモンタージュ理論の介在者として、或いはいち早くモンタージュ理論を実践した先駆者としてプロタザーノフ監督は評価されるべきか。
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