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ヨーロッパ一九五一年のodyssのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ一九五一年(1952年製作の映画)
3.5
【精神医学のデタラメ】

戦後まもない時代、アメリカから大企業のイタリア支店長として赴任して来た夫を持つ妻、というのが、バーグマンの役どころ。

ところが一人息子が自殺してしまう。
自責の念に駆られたヒロインは、男友達の新聞記者の紹介で貧しい人たちの暮らしに接して、彼らの支援に熱を上げる。

ここまでならありがちな社会派ドラマかと思うのですが、本作品の優れているところは、その先まで行っている先鋭性。

バーブマンはあるとき、労働者階級女性の代理で労働現場で仕事をするのですが、その非人間性に驚愕する。
それは、男友達の新聞記者が社旗主義の理念に従って賞讃している「労働」とは別物だと思うのです。
つまり、ここは第二次世界大戦直後に社会主義賛美をやっていたインテリへの批判になっているんですよね。
現場を知らずに労働者や労働を賛美している、いい気なインテリ。

もう一点は、最後にヒロインが精神病院に入れられてしまうという筋書き。
フーコーを持ち出すまでもなく、精神病院が近代においてどういう役割を担ってきたかを明示している設定です。
そしてそういう措置に異議を唱えているのが、ヒロインと交流があった貧しい人たち。

精神医学がアテにならないことは、最近の日本でも障害者を施設で大量に殺した男が、精神科から市井に戻ってよろしいと言われた人間であったことからも明らかですが、この映画を見ても精神医学がいかに体制の道具であるかが、はっきりと描き出されています。
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