荒澤龍

スラムドッグ$ミリオネアの荒澤龍のネタバレレビュー・内容・結末

スラムドッグ$ミリオネア(2008年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

・ダニーボイル氏の作品はトレインスポッティン
 グに続き2作目の鑑賞。
・スラム街出身のジャマールが人気クイズ番組に
 出演し、難問を次々とクリアしていく。その中
 で彼の境遇や生い立ちをなぞりながら、なぜ彼
 が問題に答えることができたのかの謎に迫って
 いく。

・母親が殺される場面の暴動は宗教的対立による
 もの、ラーマはヒンドゥー教の神、アラーはイ
 スラム教の神である。母親が暴動に巻き込まれ
 て死に、取り調べもジャマールしかいないこと
 から兄貴の死亡フラグはすでに立っている。
・兄はスラムドッグ(スラム街の負け犬)から金
 ひいては資本主義の犬になった。
・番組の司会者は、変わりゆくインドにおける資
 本主義のシンボルであり、彼からの脅しや嘘に
 打ち勝つことが成り上がりをわかりやすくして
 いる。
・司会者の脅しもジャマールの生い立ちや潜り抜
 けてきた修羅場に比べれば全く意味をなさな
 い。ミリオネアになれる可能性はジャマールに
 希望と同時に重たいプレッシャーとなるはずだ
 が、兄の金に司られた姿を見ているため、それ
 に対する羞恥心や美意識がジャマールにはあっ
 て、金への執着が薄かったのではないか。

・物乞いの頃の友人アルヴィンドに金回りが良く
 なったジャマールが遭遇した際、「君は幸運、
 僕は違った」といわれるシーンが印象的であっ
 た。もっと嫉妬や憎悪の感情が表に出そうなも
 のだと。
・この場面はインドのカースト制の性質を表して
 いるのではないかと思った。カースト制が現代
 でも是正されない根本には、現世の身分は前世
 の行いによって決まるという考えがある。つま
 り、身分が低いのは前世の行いが悪かった自分
 のせいだから現状を受け入れるしかないという
 考えがアルヴィンドにもあるため、ある種の諦
 観めいたものが垣間見えたのかもしれない。
・そのほかにも運命という言葉が多用されている
 のもこのカースト制の根本の考えに根ざしてい
 そうだ。

・兄貴がラティカを逃し、ジャマールが最後のク
 イズに正解すると同時に、札束の風呂に入りな
 がらジャヴェドを撃つシーンが音楽と照明の使
 い方が上手く最高にかっこいい。兄貴の最後の
 彼への祝福だった。
・ラティカに携帯を渡していたり、ジャマールが
 答える前にお札を風呂に準備しているあたり、
 彼はジャマールの成功に確信めいたものを感じ
 ていたのではないか。
・同時にジャマールもラティカと駅で再開したと
 き、兄がつけたラティカの頬の傷に口づけをし
 たのは、兄がもうこの世にいないだろうことを
 察して、彼への弔いの気持ちも含めている気が
 する。

・映画終盤のまとめ方が非常に綺麗。スラムドッ
 グミリオネアに出場することになった経緯も納
 得がいくし映画の冒頭の問いに「D.It is
written.(運命だった)」と出すあたり鳥肌もの
で最高すぎる演出。
・最後にしっとりした曲をかけるセンスも抜群。

・映画を観始めた時は「なぜ彼の経験の中から出
 題されるのだろう?」という観点で、何かしら
 のトリックをある意味期待していた。しかし
 「すべて運命だったから」という運命論に帰結
 したのはいい意味で裏切られた。賛否分かれる
 かもしれないが、個人的には最高にロマンティ
 ックでギミックばかり考えて観ていた自分の頭
 の大きさに喝を入れてくれたような気持ちであ
 った。
荒澤龍

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