ベトナム戦争帰りの内省的な男が社会のクズが巣食う売春宿にカチコミをかけて皆殺しする、同じくポール・シュレイダー脚本の『タクシードライバー』と多くの共通点を持つ姉妹的一編。
『タクシードライバー』の翌年に生まれた本作主人公はトラヴィスをより先鋭化したようなキャラクターだ。
なんとか帰還するも妻には新しい男が居り、息子ともどことなくよそよそしい。
家庭には既に居場所がない。
疎外感のうちに、その妻子も端金目当ての強盗に殺され自身も片腕を失うという、より酷い仕打ちを受ける。
そのような理不尽に遭ってなお主人公の感情が全くわからないのが不気味だ。
トラヴィスが記したような日記もないので、彼が何を考えているのか分からない。
後に、『魂を失った』と語られるように、ベトナム戦争で人間的な感情が既にしんでいることが明かされる。
劇中で鑑賞者が目撃する主人公の姿は抜け殻でしかない。
クライマックスはトラヴィスのように浄化や再生の機会にはならず、作品は終わる。
義手の鉤爪こそキャッチーなキャラ付けだが、戦争がいかに人間を変えてしまう悲惨と、兵士の犠牲に値しない社会への怒りをより救いはなくひたすらに渇いているトーンで表明した作品。
主人公が感情移入を拒むので個人的にはトラヴィスに寄せた憧憬やクライマックスにカタルシスは感じないし、ともすると無軌道に映る道中は退屈かもしれない。
また、彼を追うクリフのシーンやカチコミに同行する後輩兵士のシーンはテンポを悪くしていて余計に感じる。
それでも、シュレイダーの作風やテーマについて考えを深めるためにも観ておいて良かった。