HAYATO

未来世紀ブラジルのHAYATOのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
3.2
2024年160本目
情報統制社会の狂気
『12モンキーズ』などで知られる鬼才・テリー・ギリアム監督によるSFカルト映画の金字塔
20世紀のどこかの国。国を統括する巨大組織・情報省によって国民は厳しく統制され、街では爆弾テロが相次いでいた。そんな中、情報省のコンピューターがテロの容疑者「タトル」を「バトル」と打ち間違え、無実の男性・バトルが強制連行されてしまう。その一部始終を目撃した上階の住人・ジルは誤認逮捕だと訴えるが、取り合ってもらえない。情報省に務めるサムは、抗議にやって来たジルが彼の夢の中に出てくる美女そっくりなことに気づく。ある日、自宅のダクトが故障し困り果てていたサムの前に、非合法の修理屋を名乗るタトルが現れ……。
『ヒート』や『L.A.コンフィデンシャル』、『ボヘミアン・ラプソディ』など、数々の名作を手掛けているイスラエル出身のプロデューサー・アーノン・ミルチャン製作。
『2人のローマ教皇』のジョナサン・プライス、『キング・オブ・コメディ』のロバート・デ・ニーロ、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のマイケル・ペイリン、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのイアン・ホルム、『海の上のピアニスト』のピーター・ヴォーンらが出演。ロバート・デ・ニーロは当初ジャック役を希望していたが、ギリアムはすでにマイケル・ペイリンをキャスティングしていた。デ・ニーロがそれでも出演を熱望したため、タトル役に。
本作では全編に渡ってブラジルの作曲家・アリ・バホーゾが1939年に作詩・作曲した"Aquarela do Brasil"(英語圏では"Brazil"の名で知られる)が使われている。統制された社会から南米のブラジルに逃れることにロマンティックな憧れを抱いたテリー・ギリアムは、この歌に惹かれ、映画のタイトルを舞台設定とは全く関係のない『Brazil(原題)』にしたそう。なので本編にブラジル要素はなし。
皮肉に塗れたディストピア的世界観にゾッとさせられる本作は、全体主義国家によって統治された近未来世界の恐怖を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984年』の影響を受けている。情報管理社会から抜け出そうともがく人間の姿を描いたストーリーにおいて重要な役割を果たすのが、数多くの場面で登場するダクトの存在。一般庶民の家では日々の活動を邪魔するダクトを避けながら暮らさなければならない一方、役人のサムのアパートではダクトは全て壁の裏に隠されているというように、ダクトは「国民の階級」のメタファーになっていて、国家が個人を支配しているのを象徴するもののようでもあった。
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