スローモーション男

王と鳥のスローモーション男のレビュー・感想・評価

王と鳥(1980年製作の映画)
5.0
 すごい傑作のような気がする。
観たばかりで、まだ自分の答えがでていない箇所もあるがジワジワと来ている。

 フランスのアニメ映画で1952年の『やぶにらみの暴君』を修正した映画。

あの高畑勲をアニメーションの世界へ誘い、宮崎駿も『カリオストロの城』や『君たちはどう生きるか』などに影響を与えた。

 一つの王国と城。孤独でわがままな王様。王様が恋する絵の中の羊飼いの娘。羊飼い娘と愛しあい王国から逃げ出す煙突掃除の青年。そして2人を助ける紳士的な鳥。
 すべてが魅力的な映画で、圧巻の素晴らしさだった!

 まず綿密なアニメーションの作画が素晴らしく、部屋の奥の奥まできっちりと描かれているし、人間たちの滑らかな動きは観ていて心地が良い。

 そして何よりテーマとメッセージがストーリーと上手く溶け合い、素晴らしい映画に仕上がっている。
 城という縦の社会。てっぺんに王様がいて、地下に貧困層の市民が居る。
これ『未来少年コナン』じゃね???
 
 王様が悪いやつなのかもよく分からない。部下を落としたりするが、どこか悲しそう…。それなのに実は中盤で絵の中の王様と入れ替わるのだ!これが衝撃的でいわば偽物の王様が実権を握ってしまう。
 さらにあのロボット。人に操られているのだが、ラストシーンで暴走する。
そこでは鳥によって反乱を起こす動物たちの生き生きとした姿が描かれるとともにロボットの破壊欲求が爆発する。そしてすべてが無になってしまうのだ…。

 これは恐ろしくも悲しく、だが自由でもあり嬉々した瞬間もある。多方面から物事を見るための映画のようだ。

 高畑勲×爆笑問題 太田光の対談でも高畑勲が同じことを語っていました。また9.11テロとこの映画のラストが似てしまったことも言ってた。

そしてこの映画で鳥が演説で動物たちを奮い立たせるように、人間はもっと言葉を使うべきだと。
確かにその通りだ。今の時代はSNSの時代になって人と会って話すことがなくなってしまった。この映画の王様のように部屋に籠って画面の中の推しに恋する。それでは自分に自信がなくなり他人に嫉妬してしまう。
この映画で描いた恐怖は今の時代にも通じるし、この先もっと通じるのではないかと考える。

そのくらい時代の最先端をいった画期的なアニメーション映画であった。