月うさぎ

人生はビギナーズの月うさぎのレビュー・感想・評価

人生はビギナーズ(2010年製作の映画)
4.0
映画を面白いと思う時、自分とかけ離れた世界や設定であるからこそ、という部分が大きいのかもしれない。
「カモン カモン」と同じ監督作品
こちらを後から観ましたが、本作は素直に楽しめた。私の親は同性愛者でもなかったし、愛した人との別れを繰り返す孤独な生き方もしていないから、他人の物語を楽しめる余裕があったのでしょう。

両作はとても似ている。第一に親との関係性に不安を持った子どもが描かれている。芸術関係の仕事をしている父親は自分の事で手一杯で息子との関係が希薄。母は知的で頑張っている感情の豊かな女性だがすり減っていて、息子は母親べったりな毎日だけれど実は父親を求めている。
ただ「ビギナーズ」では子どもは40近いいい歳の男に成長しているし、実際の主人公は老人の方。
この二人を演じる役者がそれぞれとてもいいニュアンスを醸していて引き込まれる。
母親を亡くした直後に父親にゲイ宣言をされる息子。受け止め難く悩んだり逆上したりという事はなく、それまで遠い存在だった父親の素顔に出会い関係性を取り戻し、親子で過ぎし時代をやり直すという「再生」が描かれていた。
女性との新たな出会いと恋の始まりも。
いつでも新しい人生は開ける。その一歩は踏み出すには勇気がいるけれど。だから誰もがビギナーズでありうるのだ。

父母の関係性、母の精神状態が子どもの精神形成に影を落とすことは多い。幼少期の母と過ごすシーンにそれが見られる。この監督さん本人にも何かあるんだろうな。と漠然と考えていたら、実話だった。
ミルズの父が75歳で亡くなるまでの5年間の出来事に基づいた脚本だという。納得。

それにしても人生最後に好きなように生きたいという父親が決してわがままではなく、愛すべき人に見えた事は素敵だった。息子は寄り添ってくれる、若く優しい恋人と愛犬と同じ趣味の仲間たちに囲まれて景色の良い家に住み好みの本や服を買い、幸せそうだ。
でもね。あんたはいいよね。先に亡くなった妻はどうなの?とはちょっと感じた。
薄いブルーの瞳の色が時にグレーがかって見えるユアン・マクレガーの大きな瞳が印象的。こんなに繊細な男の役が似合うとは。

主人公のオリヴァーはアートディレクターでイラストレーターなのだが、この絵はマイク・ミルズ監督のものであるらしい。
これらのイラストが言葉以上に語りかけてくる。
そして時代を表す写真や映像のコラージュ。
非常にアーティスティックな映画だった。

そしてぜひ助演犬優賞を彼にあげたい!
ジャック・ラッセルのアーサーが可愛い❤️
可愛すぎる。
アーサーは言葉も150もわかるのだそうだ。音声で喋れないだけで(笑)
ただそこにいるだけでなく、ちゃんと家族のメンバーとして演技していますよ!
キャストとしてのクレジットもある
コスモCosmoくん!
彼を気に入ったユアン・マクレガーは、コスモを譲ってほしいと調教師に頼んだけれど実現しなかったのだそう。気持ちわかるわ。
評価高めなのはワンコの演技によります!
月うさぎ

月うさぎ