逃げるし恥だし役立たず

兵隊やくざの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

兵隊やくざ(1965年製作の映画)
3.5
戦渦広がる昭和十八年、ソ連国境間際の関東軍兵舎に札付きのワル・大宮貴三郎(勝新太郎)が入隊する。指導役の上等兵・有田(田村高廣)は貴三郎の荒くれぶりに頭を抱えるが、次第に彼らの間に友情が芽生える。戦場に生きる男たちの奇妙な友情と生き様を描いた傑作青春アクション映画。勝新太郎演じる破天荒な主人公と田村高廣演じるインテリ上官のコンビが大活躍、『座頭市』『悪名』に続く、勝新太郎"第三"の大ヒットシリーズの第一作。
昭和十八年、極寒の地ソ満国境に近い孫呉の丘の関東軍四万人が駐屯する兵舎に、浪曲師の門を追われたやくざの用心棒・大宮貴三郎(勝新太郎)が入隊する。落ち着く間も無く風呂場で乱闘騒ぎを起こした貴三郎の指導係に任命されたインテリ上等兵・有田三年兵(田村高廣)は此の乱暴者相手をどうしようかと思いあぐねるが、貴三郎の規律に縛られない奔放さに惹かれていき、過酷な軍隊生活で二人は友情・信頼関係を築いていく。傲慢な貴三郎は上等兵たちの反感を買い、兵隊係の白井上等兵(藤山浩二)の鉄拳制裁、砲兵隊で元ボクサーの黒金伍長(北城寿太郎)によるリンチから発展した合同大演習の夜に歩兵隊と砲兵隊を巻き込む大喧嘩、炊事班の石上軍曹(早川雄三)による暴力など理不尽な軍隊生活が極限に達した時、奇想天外な脱走計画を実行する。鬼才・増村保造と勝新太郎が初めてコンビを組んで描いた意欲作である。
激化する日中戦線が舞台だが敵と戦うシーンは無く、体制に批判的でシニカルな大学卒のインテリ古参兵と、札付きのワルで型破りな無頼ぶりのヤクザと云う、最果ての地の軍隊でなければ凡そ知り合うことのない二人が互い庇い合い助け合っていく友情のプロセスを軍隊生活でのエピソード集にした構成で展開していく。根底に理不尽な戦争や非人間的な軍隊への憎悪、繰り返される鉄拳制裁、自殺する新兵、脱走する兵隊、慰安所の遊女の音丸(淡路恵子)たち虐げられた人々の悲哀、戦争が何れ程に馬鹿げたもので、軍隊により如何に人間が醜くなる様を描きながらも、軍隊の中で育まれる二人の友情、軍国主義や軍隊組織への抵抗から自由への渇望を躍動的に、時にはコミカルに描き、天衣無縫な勝新太郎の演技、説教臭く感じさせない演出により、反戦映画と同時に痛快且つ爽快な娯楽映画に仕上げている。
洗濯物を干したり・不器用ながら足袋を縫ったり・裸でどつきあったり・反省から座り込んで自分をどついたりとコミカルなキャラを飄々とやる勝新太郎の役者パワーは流石であり、ヤクザとインテリの兄弟分がバイオレンスとユーモアを交えて繰り出す抜群のコンビネーションは勝新太郎と田村高廣の新境地と云える。昭和四十年代半ばにかけての斜陽の映画界を支えた大映のエースとして君臨した勝新太郎の絶頂期、これから先の日本映画で良い意味でも悪い意味でもレジェンド的存在の勝新太郎の担い手になる人物は残念ながらもう出てこないだろう。
男惚れした田村高廣の慈悲深い瞳の先にある、コロコロした軍服姿の勝新太郎のリスのような黒目が愛らしく何ともカワイイ!