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天国の門のmasayaanのレビュー・感想・評価

天国の門(1980年製作の映画)
4.6
なるほどこれは・・・凄まじい映画だ。「これは事実に基づいた物語です」というテロップの有無にかかわらず、映画は本質的に「嘘」を物語る装置の筈なのだが、しかし『天国の門』では、映画のために本物の国をひとつ作ってしまったのではないかと見紛うほど、入植者たちや、彼らが住む町の風景は、生々しい生活感(*)を漂わせながらフィルムに定着している。

(*)それと同時に、宙に漂う「煙」すらも不自然なまでの完璧さで画面に収まっているのを見ると、逆にとてつもなく嘘っぽい世界にも思えるのだが。どこかでも書いたことだけど、映画はここまで「完璧に」撮ってもらうことを人類に期待しているのかと、そういう逆説的な心配をしてしまう。もちろん、その「完璧さ」のために会社がひとつ潰れているわけだけど・・・。

一義的には、『シェーン』と題材を共有するきわめてアメリカ的な西部劇として見るべきだが、かと言って、『天国の門』が「社会派の視点を備えた良識ある映画」になっているのかと言えばそうではない。物語の中心にあるのは常に一人の女(娼婦!)を奪い合う二人の男であり、その古典的で通俗的なメロドラマは、本作が合衆国の負の記憶を偽史的に語りなおす野心作であることを忘れさせるほどだ。

題材は異なるが、物語のうねり方としては、基本的には『ディア・ハンター』と同じである。やがて来る「別れ」の時を予感させるかのように、歓喜の季節が「これでもか!」というくらいに瑞々しく描写されるのだ。ハーバード大学での卒業式のダンス・シーンや、入植者たちの集うスケート・ホールでのパーティ・シーンは、そんなわけで見る者を泣かせるだろう。卒業式の歓喜の中でふと呟かれた「分かるか?終わったんだよ。終わったんだ」の言葉は、映画の最後まで静かにこだまする。

DVDの219分版にて。『ファイナル・カット』は未読です。
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