タル・ベーラ監督作品…3作品目…。
相変わらずの長回しが凄い…目を逸らせません…。
舞台はハンガリーの田舎町…主人公であるヤーノシュは天文学に興味を持つ郵便配達員…。
夜の居酒屋では酔った客たちを太陽、地球、月に見立ててその動きを皆に教えます…。
これは国を表すメタファーなのか…?? ハンガリーという国の歴史はよく分かりませんが…大国ソ連《太陽》の影響下にあったことを地球の衛星《月》に見立てたのでしょうか…??
ヤーノシュは仕事と家の往復の中…老音楽家エステルの身の回りの世話を日課としています…。
そのエステルは18世紀の音楽家、タイトルにもあるヴェルクマイスターの批判をテープに口述記録します…ヴェルクマイスターとは1オクターブを12の半音で等分し調律の技法を編み出したドイツの音楽学者…エステルは既存のものには常に疑いを持つ思想の持ち主のよう…。
そんなある日…街に現れた不気味なトレーラー…そして街角には一枚の張り紙が…
“FANTASTIC: THE BIGGEST WHALE IN THE WORLD. AND OTHER WONDERS OF NATURE!”
夢のよう、世界一の巨大クジラ…自然界の驚異!
そう!! トレーラーに乗って広場にやって来たのは巨大クジラ…ヤーノシュはその神秘性、優しく純粋な瞳にすっかり魅了されます…ヴィーグ・ミハーイのスコアも耳に残り儚げで甘美…♪
しかしこれを境に街では何かが歪み始め、住民たちの間には不安が広がり…遂には暴動へと発展していきます…。
始まりと同時にタル・ベーラの映像に引き込まれます…壮大且つ重厚感のある唯一無二のモノクロ映像…広場での人物の配置や向きも測ったように計算され尽くした構図…群衆の中を縫うように歩く主人公に寄り添うカメラ…そして圧倒的な長回し、じんわりと期待を持たせて映していきます…。
1番好きなシーンはトレーラーが街にやって来たシーンの長回し…最初は何がやって来たのか分からず大きな影が迫って来ます…画面左奥からじわりじわり…次第に明らかになる怪物のように大きなトレーラー…不安な気持ちと異様な重圧感はまさにダークな幻想世界へと誘い、怖いながらもワクワクします…。
また、暴動シーンでは群衆はひたすら無言…土を踏みしめる行進の足音だけがザクッザクッザクッ…そしてそれを俯瞰で延々と追い続けるカメラ…その不穏さに緊迫感が張り詰めます…。
ハーモニーとは統制の取れたもの…つまりは秩序…それはちょっとしたことで瓦解してしまう危なっかしさを常に持ち合わせています…恐るべき精度でそれを突きつけてくるタル・ベーラはやっぱり凄い…!!