映画好きなリコ

彼岸花の映画好きなリコのレビュー・感想・評価

彼岸花(1958年製作の映画)
4.1
笠智衆の詩吟に、同窓の面々が聞き惚れるシーンがとても切なくて感動しました。

どこの家庭もおしなべて親バカなのが大変面白い芝居で、独特のアングルとカット繋ぎの文法が決まっているせいか泣いたり喧嘩していても不思議さと滑稽さで笑ってしまいました。
佐分利信が詩吟を口ずさみながら広島に向かう列車に乗っているラストも、その後の広がりや余韻を残していて、非常に良かったです。

コップに注がれたビールの量から開いたドアの角度に至るまで、全てがコントロールされている画面作りは、偶然の映り込みを絶対に許さない辺り、アニメのレイアウトの感覚と良く似ていると思いました。

直線的な遠近法いわゆるパースラインもアニメでは多用されますが、小津安二郎は縦横斜めの遠近法も、まるでモンドリアンのようなモダンアートにしている辺り、とんでもない事をやっていると思いました。ビクターテレビのビルのシーンも小津安二郎の感覚にピッタリでした。

小道具から役者の演技立ち位置に至るまで、すべてが計算された不自由極まりない世界ですが、逆にいえば見せたいものが何なのかが非常に分かりやすく、監督のやりたい事がダイレクトに伝わってくる辺り、ごまかしがまったく効かず、堂々と作品で勝負している潔さは、監督として筋が通っていてとてもカッコいいと思いました。

また、画面を通して観客に語りかけてくるアングルは、ラーメン屋やスナックの店員やら、市井に生きる平凡な人々がみんな主役に立ち上がってきて、大変魅力的だと思いました。浪花千栄子の演技は監督が制約しなかったのでしょうか?他の役者と比べてとても自然で良かったです。
近藤の南京豆のくだりは笑いました。