映画好きなリコ

ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記の映画好きなリコのレビュー・感想・評価

3.4
ラストでドラえもんが、
「じゃあみんな元気でね」と
どこでもドアに入るのは、本作が藤子・F・不二雄先生の遺作であると考えると、先生の、そして先生との、お別れのメッセージと捉えられます。

思えば、創生日記(或いは雲の王国)の映画から、ドラえもんという枠に収まりきれない藤子・F・不二雄先生の、一段階高みに上った作家性が色濃く見え始めていたように思います。
SFや神話というファンタジーに傾倒してきた先生だからこそ、地球環境の中で生きる生物として、現実を見据えてこれからいかに生きていくかという群像劇や新しい神話を、ドラえもんの枠を越えてやっていきたかったのかもしれません。もし先生がご存命なら、また違ったドラえもんワールドが展開されていたのではないか、と考えると非常に胸が熱くなる思いです。

本作はいまいち地味で、語られない印象ですが、とても晩年の先生の思想を感じられる作りになっていると思いました。

藤子・F・不二雄先生自身が、「種まく者」という、自由自在に姿を変える神様として、後進に後を託しているように見えるのは非常に興味深いポイントです。
敵がただの人間であり、いまいち魅力に欠ける凶悪犯のコピー集団というところもまた、示唆に富んでいるように感じました。

残念なのは、のび太のパカポコ、ジャイアンのティラ、しずかちゃんのピーブ、それぞれに、何かしら絆を育むエピソードをひとつでも挟んでおけば、お別れの時にのび太の恐竜や日本誕生のような感動があったのではないかというところです。

また、熊虎がホクロとして生まれ変わるという描き方も悪くはなかったのですが、熊虎がパンダの乗り物に乗った辺りで、コピーも1つの人格から生まれ出たものだとわかったので、それならばドラえもんら子どもたちと共闘して触れあっていく中で、熊虎自身が改心して自首するというプロットならもっと面白くなっていったのではないかと思いました。もっと残虐な奴がコピーにいて我が身を振り返るとか。

創作物には現実の作家性が混ざるもので、藤子・F・不二雄も、宮崎駿や庵野秀明と同じように、ファンタジー作品には収まりきらない「君たちはどう生きるか」をこうして作っていたのだな、と改めて思わされた次第です。