ストレンジラヴ

激突!のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

激突!(1971年製作の映画)
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「頼む!速く…速くっ!」

いや、スピルバーグ天才だろ。
開始早々、家を出てから市内の道路を抜け、ハイウェイから国道へ。人の行き来は次第にまばらになり、ラジオの音声だけが鳴り響く…このカットだけでも「この後何が起こるんだろうか?」と想像を掻き立てられる。そう思っていたら錆びついたディーゼルトラックがノロノロと走っており、後ろ姿からその全貌をカメラがヌルヌルと抜き出すのである。何年目の監督がこのカットを撮影したのか?信じ難いことに、この作品の監督はこれが映画監督としては処女作なのだ。
今で言うところの「煽り運転」を題材にした本作だが、とにかくトラックだ。運転手は姿を見せないし、当然声も発しない。だから何を考えているかも分からない。運転手が姿を見せない分、トラックそのものがまるでひとつの生き物のように見えてくるのがなんとも恐ろしい。そしてこの運転手の運転スキルがとんでもなく高い。狭い道路でのUターンを当たり前のようにするわ、ピンポイントで電話ボックスを吹き飛ばすわ。MTでよくここまでやるものだと逆に感心してしまった。
余談だが、今年3月にスピルバーグ監督は自叙伝ともいうべき作品「フェイブルマンズ」を公開した。クライマックスに主人公はある人物からある薫陶を受けるのだが、それが念頭に入っていると、「ああ、なるほど」と妙に腹落ちするのだった。
人間、どこで恨みを買うか分からない。人付き合いにはくれぐれもご注意を。