ストレンジラヴ

バリー・リンドンのストレンジラヴのレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
4.1
「道を切り拓く能力のある者は、時にその道で身を誤る」

18世紀半ば、アイルランドの農家から数奇な運命を経て上流階級に入った男レドモンド・バリーの生い立ちと末路を描いた一代記。スタンリー・キューブリック監督は18世紀の雰囲気を演出するため、ロウソクなどの自然光のみで全編撮影し、採光のためにわざわざレンズまで改造した。
ここまでこだわり抜いただけあって映像は見事。18世紀の宮廷から田園風景に至るまで、本作以上に描ききった作品は恐らくないだろう。ただジワジワと物語が変化していくため展開の割には起伏があまりなく(というより、そういう描かれ方をされている)、バリーがレディ・リンドンに取り入るまでで既に疲れた。上映時間も186分とかなり長い。しかしこれでもキューブリック監督はサッカレーの原作を圧縮しているらしい。
で、物語だが、とにかく主人公"バリー・リンドン"ことレドモンド・バリー(演:ライアン・オニール)が清々しいくらいクズで自惚れ屋。ついでもその周りも大体クズ。アイルランドの片田舎で従姉といい感じになるも、従姉はイギリス軍大尉とできてしまい、ブチギレたバリーは決闘によって大尉を倒す。しかしここまで全部バリーを厄介払いするためのヤラセだったうえにバリーには逮捕状まで出てしまう。金を渡され逃げる途中追い剥ぎに遭遇したバリーは食べるためにイギリス軍に志願するが、軍務に嫌気がさして欧州大陸での戦闘中に脱走。かと思いきや道中で出会ったプロイセン軍将校に脱走を見抜かれてそのままプロイセン軍に従事。そのままベルリンに滞在するが、身辺調査の対象となった"自称貴族"シュバリエ・ド・バリバリーが同郷と知るやあっさり寝返りそのまま賭博師として欧州各地で貴族相手にイカサマを繰り返し、遂には年の差夫婦の貴族であるリンドン家のレディ・リンドンに取り入りそのまま結婚、湯水のように金を使い資産を食いつぶしてしまう…書き起こすだけでもクズっぷりは枚挙にいとまがないし、周囲も所詮やれ騎士道だ紳士道だなどと体面ばかり気にするバカばかりだからバリーにいいように騙される。生きるとは何なのか?観れば観るほどバカバカしく思えてきた。
そんななかで、腰は重かったが自分の臆病さと向き合ったブリンドン卿にはやや救われた気持ちだった。
「風と共に去りぬ」と違って、内心「ざまあみろ」としか思わなかったが、バリーだけに責任を押し付けるのも果たして正しい解釈なのか悩んでしまう。もし従姉が気移りしなければ、もし追い剥ぎに遭遇しなければこうはならなかっただろうし、そもそも身分が全ての世の中で夢を見てはいけないのかという話にもなってしまう。まあ、どっちにしてもバリーがクズであることに変わりはないんですけれど。