ストレンジラヴ

グッバイ、レーニン!のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
3.9
「私が寝ていた8か月の間に何があったの?」

父が家族を捨てて西ドイツに亡命してから、アレックスは母クリスティアーネと東ベルリンで暮らしている。クリスティアーネは父の亡命以来熱烈な東ドイツの支持者となったが、東ドイツ建国40周年の年に心臓発作で倒れ昏睡状態になる。8か月後、奇跡的に意識を取り戻したクリスティアーネだったが、その間にベルリンの壁は崩壊し、東ドイツは風前の灯となっていた。医師から「今度クリスティアーネにショックを与えたら命の保証はない」と宣告されたアレックスは、東ドイツの崩壊を隠すべく芝居を続ける。
微笑みと、多分ひと筋の涙を誘うコメディ。東西ドイツ統一時の東ドイツ側の混乱がユーモラスに描かれており、当時の人々の率直な気持ちに触れることができた。紙クズと化した東ドイツマルク、急に西側の商品を大量に陳列するようになったスーパーなど、カルチャーショックを受けながらも喜びを享受した東側。一方で学校教師をはじめ、それまで英雄とされてきた人々はたちどころに居場所を失い、ある者は昼間から家で酒浸り、ある者はゴミを漁り、ある者は運転手として日銭を稼ぐようになったなど、豊かな生活とは裏腹に全員が幸せになったわけではないことがうかがえる。もっとも、車を注文して「たった3年で」完成する社会など僕はまっぴらごめんだが。
途中、キューブリック作品のパロディありの、資本主義社会に移りゆくなかで頑なに社会主義のフリをする様子ありので笑わせてくれるが、アレックス役のダニエル・ブリュールが魅せる母へのつぶらな瞳と、それを支えるソ連の看護師ララを演じたチュルパン・ハマートヴァの一歩下がった姿勢がホロリとさせる。そして「多分嘘だな」と思いながらも息子の想いを汲み取って表に出さないクリスティアーネに胸を締め付けられた。
同じ時代を扱った「善き人のためのソナタ」とはまた違った趣で描かれた東ドイツの姿。欺瞞に満ちた国家の終焉に起こったやさしい嘘の物語。