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オーケストラ!のNMのレビュー・感想・評価

オーケストラ!(2009年製作の映画)
3.3
元著名指揮者で、今は清掃員という
悲劇的な状況にある中年のアンドレイ。
コメディ的に描いているが
実際こんな目に遭ったらと思うと
とんでもないハードな人生だ。
一度成功した後の地味な生活は、
なおのこと堪えるだろう。

この悲劇が起きたのは1980年。
ひょんなことから30年のブランクを経て、
当時の団員を集めコンサートをしようとするが、問題山積、当然上手くいかないが、
奇跡が重なる。
アンドレイが、どうしてもコンサートに、
そしてチャイコフスキーとそのソリストに
こだわっている理由とは……。

全体にライトに面白く描かれていて気付きづらいが、
よく考えてみると
実はなかなか厳しい冷戦などの
歴史、政情、人間関係が背景となっている。
それをみんなまとめて包み込む音楽の力。
この無二の名曲に乗せて過去を回想する
というのはやや反則の域だ。
理屈は差し置いて
有無を言わせず感動してしまう。
それぞれの長い悲しみの日々を、
音楽が無言で昇華させていく。

彼の妻は、現実主義で
ずっと目の前の生活に必死だが、
しかしいざという時はどんと背中を押すという、素晴らしいパートナーだ。

作品は2時間と意外と長いがかなり短く感じ、
連ドラの1回ようにすんなりと観ることができる。

華々しいコンチェルトによる大団円のあと、
思い出させるように
最後に主人公アンドレイのテーマが悲しく流れる。
国政によって、親子が、夢が、仕事が、平凡な幸せが壊れることが
実際にたくさん起きたことを忘れたくない。
今も世界では悲劇が起き続けている。
それを乗り越えることができるとしたら、
それもまた人間自身の知恵と勇気と赦しの力でしかあり得ないのだと考えさせられる。
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