マインド亀

異人たちとの夏のマインド亀のレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
4.0
ええー!これって、ファンタジックホラー作品だったの!!

●イギリスのリメイク版『異人たち』が上映するとのことで、そういえばしばらく大林宣彦監督作品って観てないなあ、山田太一作品は全く観たことないなあ、と思い鑑賞。私、不勉強で昔の日本映画って本当に観てないんですよね。
で、案の定、山田太一で題名が『異人たち』ですから、完全なるヒューマンドラマだと思ってました。まあ、死人がすぐ隣にいるような世界を描く大林宣彦監督ですから、少しは死人を幻視するようなシーンは出てくるくらいかな、と思ってたのですが、まさかまさか!まさかこんなベタベタな『牡丹灯籠』の怪談映画とは!!

●ですが、この映画、一筋縄では行きません。主人公の風間杜夫は、いつの間にか浅草下町の自分が住んでた実家で、子供の時早くに死別した両親に優しく迎えられるのですが、そのやりとりがまた感動作品なんです。もうね、後半の『牡丹灯籠』の名取裕子パートとの振り幅がすごくて、めちゃくちゃカオスなんですよね。で、公開当時も賛否両論で、名取裕子パートのこのカオスなファンタジーホラーなところがやっぱり浮いている、という批判もあったようですが、私は逆にこのパートのぶっ飛び具合によってこの作品は、映画の理論やリアリティを飛び越えた、極めてエモーショナルで説明のできない輝きを放っているんだと思うんですよね。むしろこのパートがあるからこそ魅力的というか、記憶に鮮烈に残るというか、これ、名作じゃん!って感じです。
むしろ死者と生者の境目が曖昧な大林宣彦作品群において、はっきりと死者の世界との区別(こちら側とあちら側)に分かれているのは珍しいんじゃないでしょうか。

●もともとは、マンションでゾンビが出てくるホラー映画の依頼があったそうなんですが、流石にそんなチープなベースのまま大林宣彦監督が撮るとは思えず、むしろその名残を残したまま山田太一のヒューマニズムを悪魔合体させてくるとは、流石としか言いようがない。
で、その両親パートの片岡鶴太郎と秋吉久美子がめちゃくちゃいいんですよね。もうあの浅草今半のすき焼きのシーンは涙なしでは観られない。
特にその頃小悪魔的な魅力を放っていた秋吉久美子が、母性と色気を両立させてて、本当にイイんですよ!息子の風間杜夫もうっかりその色気にヤラレそうになってましたが(笑)この役はハマり過ぎですね。肝っ玉母ちゃんっぽいのに可愛くて色っぽくて、すべてを包みこんでくれる男たちの憧れなんですよね。このためだけに本作を観る価値は絶対にあります。

●この作品が撮られた1988年って、アニメの世界では『逆襲のシャア』や『AKIRA』、『となりのトトロ』といった革命的な名作が作られた年でもあるんですよね。そう考えるとアニメでは色褪せない世界観なのに、実写の邦画界はまだまだチープでノスタルジックで、すぐに色褪せるような雰囲気の質感なのが対照的ですね。バブルの香りが濃厚にするのも、今となっては懐かしくて面白い。
この作品のなんだかうまく表現できない魅力を、現代においてアンドリュー・ヘイ監督が、どっちよりのバランスでどう調理するのか、本当に楽しみです!
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