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虹の橋の教授のレビュー・感想・評価

虹の橋(1993年製作の映画)
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なかなか観ることが困難で。
きく役の渋谷琴乃の大ファンで。当時15〜6歳の自分が、たまたま見つけた新聞広告で、たまたま一番近くの電車で30分先の映画館へ何回も通って観た作品。
その後、テレビ放送された際(恐らくそれも一度限り)に鑑賞して以来で25年近く経過している。

改めて観て、やっぱり好きな作品である。
多分に松山善三監督の、戦後民主主義的というよりも共産主義への理想を仮託したコミューン思想の体現のような、貧乏長屋を舞台にして、これでもかという庶民礼讃の作劇。清貧の美学に貫かれていて、見ようによっては極端なメッセージに感じる部分はある。

キャスティングされた俳優たちは、ベテランと若手ともに「実力派」で揃えられて。「演技」然とした演技は現代の視点から見ればややオーバーに感じたりもするが、むしろ、演じるという行為からでしか表現できない仕草や表情の動きが、物語に没入させていく上で虚構的なリアリティが高められてもいる。つまり「リアル」であることが「映画的」だとは断定できないということでもある。

長屋の貧困から浮かび上がる社会全体の問題。大人になるための「通過儀礼」として手に職を身につけていく健気さ。「職人」の仕事ぶりから描かれる日本的なクリエイティビティの豊かさ。
「元禄文化」を背景にした、さまざまな職業から生まれる工芸品などの画面的美しさなど、プロットに描きこまれたディテールの豊かさは見事。
それが画面作りの彩りにもしっかり反映されていて、良質な日本映画となっている。

不条理で理不尽な「人生」そのものに対して諦めるでもなく、抗うでもなく、翻弄されながら最終的には利他的に生きることの尊さと、奥歯を噛みしめ尊厳を失わないために静かに戦い続けるのだ、という決意に満ちた味わい深さを感じて。
この機会に再度観ることができてよかった。
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