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自転車泥棒のtakのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
3.9
不況だ不況だというけれど、戦後の不況がいかに苦しいものだったか。ネオ・リアリスモの映画は厳しい社会と向かい合う人々を映像に収め続けた。この「自転車泥棒」も、主役親子は素人を起用し、オールロケーションで撮影する、現実を見つめた映画である。ひとつの職業を得ることがいかに困難な時代だったのか。

たった一台の自転車を取り返すことができなかったアントニオは、サッカー場の外に止めてある多くの自転車を見て「一台くらい」という気持ちになっていった。だが彼はそちらではなく、街角に一台だけ止めてある手近な自転車を盗もうとしてしまう。人間の弱さ。それを台詞なしに見事に表現している。

ラストの何も言えずに夕暮れの町を歩く親子の姿に、やりきれなさを感じてしまう。それは人の弱さ故でもあり、時代に対してであり、貧困を救いきれない政治であったりするのだが。息子から見る父親は情けなく、惨めだ。なかなか自転車が見つからずにイラだつ父に叩かれても息子は父親を慕う。つかまって小突き回される父親にすがって泣く少年の姿は涙を誘う。
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