逃げるし恥だし役立たず

大砂塵の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

大砂塵(1954年製作の映画)
3.5
アリゾナの賭博場へやってきた流れ者のギター弾きジョニー・ギター(スターリング・ヘイドン)と昔の恋人ビエンナ(ジョーン・クロフォード)が自警団エマ・スモール(マーセデス・マッケンブリッジ)達と駅馬車襲撃犯との争いに巻き込まれていく事件の顛末を描いたニコラス・レイ監督の異色西部劇。
壮大な大自然を背景にした砂嵐や爆破のシーンの状況描写の迫力や異様さは新鮮だが、ビエンナとエマの歪んだ思考の女二人と、ジョニーとダンシング・キッドの説得力のない軽薄な男二人の四角関係の愛憎劇が駅馬車襲撃事件や銀行強盗事件により、排他的な自警団総出の縛り首にまで発展する強引な展開で、物語云々よりも結局は人物と設定で観るべき作品であろう。主人公のジョニーやダンシング・キッド一味や町の自警団の男連中は皆んな彼女達の個性に引きずられるだけで、話の中心となり更に撃ち合いまでするのはクロフォードとマッケンブリッジの二人の女性である。クロフォード扮する女主人の堂々たる迫力と時折見せる女の情感が印象的だが、其れにも増して凄いのが嫉妬に狂い小柄な体で一人気勢をあげまくる悪意の塊の様なマッケンブリッジの怪演が見事で、炎のように燃え上がる情念の対決を演出している。数々の強烈なコントラストに彩られた映像も抜群で、年齢にもめげないクロフォードの鮮やかな衣装直しや白いドレスでピアノステージから燃え盛る炎の中を奔走する姿、狂ったマーセデスがシャンデリアを撃ち落として火事になるショット、滝壺を抜けて山小屋へ誘うカット、ラストのガンファイトが素晴らしい。自警団の捜索隊が葬式帰りで全員喪服姿の中にマッケンブリッジが目を釣り上げるシーンなんかも気が利いている。兎に角、本作の売りは"強い女性"であり、此の画期的な要素があったお陰で旧来の西部劇とは一線を画した珍しいタイプの作品として大きな話題となった。今から考えると其れ程まで新鮮でも衝撃的でも無いのだが、当時は“フェミニズム映画”とまで言われて、主題歌「ジョニー・ギター」はスタンダードナンバーとなった。原題『Johnny Guitar』の其れより邦題は上手くつけているが『大砂塵の女』の方がしっくりくる。
男に必要なのは美味い煙草とコーヒーだけ…あれ、ギターは?