ツァイ・ミンリャンはどうしてこんなに凄まじい強度を持つ「画」を撮ることができるのだろうか。もう映画の悪魔とかに憑りつかれているとしか思えない驚異的な場面の数々。
本作「ヴィザージュ」は2009年ごろの作品。今までの「河」「hole」や「ふたつの時、ふたりの時間」などを想起させるシーンもある集大成的な映画だと思う。
出演者があまりに豪華で、お馴染みのリー・カンションにジャン=ピエール・レオー、ファニー・アルダン、ジャンヌ・モロー、マチュー・アマルリックまで出演している。
とにかくフランソワ・トリュフォー関係のネタが多い。大人は判ってくれない、アントワーヌ・ドワネルとかが思い浮かぶ。「日曜日が待ち遠しい!」や「隣の女」に出演したファニー・アルダンなんか「フランソワ・・・・・」なんて囁いちゃいます。ツァイ・ミンリャンの映画愛、トリュフォー愛が爆発。
ほんのちょっとだけどマチュー・アマルリックの出演場面も素晴らしい。なんとリー・カンションとアマルリックのラブシーン。お互いの下半身さわりまくる濃厚すぎる肉体的コミュニケーション。
そういえばアマルリックといえばアルノー・デプレシャン。
あ、そうか!こんな人間関係の配置が思い浮かぶ。
・ツァイ・ミンリャンとリー・カンション
・フランソワ・トリュフォーとジャン=ピエール・レオー
・アルノー・デプレシャンとマチュー・アマルリック
この人物たちの多重構造。この本作の根底にある人間関係にきっとファニー・アルダンも嫉妬したことでしょう。
本作は序盤からファンには嬉しい場面のオンパレード。最初はいつもの「水」の作家としてのツァイ・ミンリャンが爆発。台所の水道がぶっ壊れ、蛇口から水が噴き出す。それを止めようとするリー・カンション。最初横に激しく飛ぶ水道の水、それ抑え込もうとして今度は縦に水が飛ぶ。それが雨みたく降り、台所が水浸し。しかしこの「水」の作家はとにかく「水」にこだわる。次のシーンで「水槽」のある部屋にカットを繋ぐ。部屋の中は水浸しなのでベッドが水に浮いている様なシュールなシーン。さらに次の外のカットも道の端っこに流れる「水」を映し、「水」「水」「水」のイメージでカットを繋ぐ。
雪が積もる森で鏡を効果的に使ったミュージカルシーンや、アップとロングショットの使い分け、窓をテープで塞ぎ、差し込む光をコントロールしてしまう部屋の描写。鹿が登場するシュールな場面。とにかく面白い「画」を撮ったら世界でもトップレベルの一人であるツァイ・ミンリャン。映画祭だけでなく、正式な一般公開を望みたい作品だ。