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スタア誕生のmaverickのレビュー・感想・評価

スタア誕生(1954年製作の映画)
5.0
1954年のアメリカ映画。1937年の同作を、ジュディ・ガーランドとジェームズ・メイソン主演でミュージカル映画化したリメイク作。アカデミー賞では二人の主演賞を含む6部門でノミネートされた。


オリジナルは1937年の作品。1976年のバーブラ・ストライサンド主演版、ブラッドリー・クーパー監督・主演で、レディー・ガガがヒロインを演じた2018年の『アリー/ スター誕生』と、実に4回も映画化がされている。実はオリジナル版も、1932年の映画『栄光のハリウッド』を原案としている。1954年版の本作を監督したのは、その原案の監督であるジョージ・キューカー。『若草物語』『ガス燈』『マイ・フェア・レディ』などの名作を世に送り出した巨匠である。女優の魅力を最大限引き出す監督として知られ、それは本作のジュディ・ガーランドにも表れている。

本作はジュディ・ガーランドの4年ぶりの映画復帰作。前作『サマー・ストック』でMGMを解雇され、ロンドンやニューヨークで歌手としてステージ活動を行っていた彼女の、ハリウッド女優としての再起を図った野心作だ。ジュディはこの時32歳。4年のブランクを感じさせない素晴らしいパフォーマンスである。外部公演で培われた歌唱力と貫禄により、さらに力強い歌声を響かせる。これまでのコミカルで明るいキャラクターとは違い、シリアスな演技の重厚感。体も絞り、渾身の演技で魅せる彼女の最高傑作。ジュディ・ガーランドここに在りと、その天才的な才能とスター性とを証明している。彼女は本作でゴールデングローブ賞 主演女優賞を受賞。オスカーの獲得こそならなかったものの、世間の人々に、ジュディのスターとしての貫禄を見せつけるに十分だった。だが作品の人気と評価の高さとは裏腹に、失意の彼女は本作を機にさらに落ちてゆくのである。

ジュディ演じるエスターは、大スターのノーマンに導かれる形でハリウッドでの成功を手に入れる。彼女が成功する一方で、夫となったノーマンは転落してゆく悲しい物語。ノーマンを演じたジェームズ・メイソンの迫真の演技は素晴らしく、酒浸りで自暴自棄の悲痛な姿が涙を誘う。ジュディが演じるエスターという役柄は、その抜群の歌唱力とパフォーマンスによる才能の高さがシンクロしていて適役なわけだが、この相手役のノーマンも彼女自身と重なっているのが何とも皮肉な話だ。トラブル続きの役者としてスタジオから解雇され、ボロボロになり落ちてゆく姿がジュディ自身を連想させる。ドキッとさせる台詞も多く、彼女を知っている者からすれば痛々しい物語だ。出演当時、どう作品と向き合ったのだろうか。そう考えると胸が痛い。彼女が劇中で見せる、夫に向かって投げかける悲痛な叫びは自分に向けてだったのだろうか。そんな全身全霊で演じたこの役でオスカーを獲れなかった。劇中でエスターがアカデミー賞主演女優賞を獲得するのもまた皮肉な話。ジュディのショックは計り知れないものであったろう。

本作の上映時間は154分となっているが、これは当時一般向けに公開されたバージョンである。オリジナル版は181分で、これは限定公開でしか上映されていない。長尺版を嫌った配給のワーナーが、監督の反対も聞かずに容赦なくカットしたのが一般公開バージョン。オリジナル版の復活を望んだファンの要望に応え、再度繋ぎ合わされたのが176分の修復版。現在DVDや配信で観れるのは、このバージョン。ぶった切られた箇所はフィルムが残っておらず、音声に合わせたスチール写真で代用されている。なんとも残念。『ジャスティス・リーグ』の件もそうだが、いつの時代も芸術を分からないお偉いさんによって作品はズタズタにされるのだなと。怒りを通り越して悲しくなってしまう。181分は確かに長いが、本作はそれに耐えうる秀でた作品である。ミュージカル部分はどれも長いものの、ジュディ・ガーランドの圧巻のパフォーマンスで見入ってしまう。カットされたシーンはどれも前半部分であるが、どれも必然でなくてはならないシーンに思える。アカデミー賞で本作は無冠に終わったが、一説によれば、このワーナーの暴挙が原因とも言われている。オリジナル版であればもしくは。そう思うと余計に残念だ。


『アリー/ スター誕生』で大体の筋書きを知っているだけに、ラストに近づくにつれて苦しかった。悲しくも美しい愛の物語だ。当時のハリウッドの内情を知れて興味深い内容でもある。今はこんな絵に描いたようなスター、いないだろうしね。いろんな意味で当時のハリウッドを象徴する作品であり、何とも見応えがあった。ジュディ・ガーランドの最高のパフォーマンスと合わせ、スコアは満点。歴史に残る名作で間違いなしだ。
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