藻尾井逞育

憲兵と幽霊の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

憲兵と幽霊(1958年製作の映画)
3.5
「一歩踏み外せば死の谷ですからな」

意中の人だった明子を部下の田沢憲兵伍長に奪われ嫉妬に狂った波島憲兵中尉は、機密書類盗難のスパイ罪を田沢に着せ、激しい拷問の末に処刑する。兄の冤罪を晴らすべく憲兵となった田沢二等兵と明子は大陸に渡った波島を追うが、波島は過去に自らが陥れた者たちの幽霊に悩まされていた…。

話のプロットとしては、死者の幻影に翻弄されながら自滅していく古典的な怪談噺を、軍隊という特殊な世界のなかで現代風に描いています。軍や権威の手先として市民から煙たがれ、忌み嫌われることも多かった憲兵。同じく浮かばれない霊として忌み嫌われる幽霊。この嫌われた二つの存在を用いて、兵役や戦災という形で市民の日常に理不尽に踏み込んでくる戦争の恐怖を表しているかのようです。特に"色悪"の代表取締役、天知茂さんが演じた憲兵波島中尉は、凄惨で容赦ない悪役ぶりですが、その悪魔にも似た行動の合間に見え隠れする人間の弱さがうまく表現されて、ただの悪役ではないとても魅力的な存在となっています。三原葉子さん演じる紅蘭との関係も、極悪非道ではありながら、そうなりきれない人間の弱さが出ているかのようです。一方、閉塞感のある軍隊の中でも、人間らしさを見失わず正義を貫こうとする、中山昭二さん演じる田沢伍長とその弟の二等兵の存在は、この暗い物語に明るさと希望をもたらします。頑張れ、キリヤマ隊長⁈