ひこくろ

陸軍中野学校のひこくろのレビュー・感想・評価

陸軍中野学校(1966年製作の映画)
4.3
第二次世界大戦の戦時下を舞台にした、和製のミッション・インポッシブルだと思った。

いきなりスカウトされた次郎は、その場で家族も恋人も捨て、将来も棒に振り、スパイになれと命じられる。
軍隊の命令だから断ることはできない。なかば強制に近い。
だが、次郎がスパイになるのを決意するのは、しかたなくではない。
彼はほかの生徒たちと同じく、指揮官の草薙中佐の高邁な理想と情熱に打たれるのだ。

そこから始まるスパイの訓練がまず凄まじい。
語学はもちろん、マナーや作法、銃の扱い、毒薬の扱い方など、多岐にわたることを徹底的に学んでいく。
教師となるのも、マジシャンや拷問の達人、金庫破りの大泥棒、女形とさまざまだ。
勉強のなかには女性の性感帯の研究といったことまで含まれる。
彼らは、別人になって、何が起こっても対処できるように鍛え上げられる。

当然、訓練には実戦も用意されている。
次郎は仲間二人とチームを組み、イギリスの暗号コードブックを盗み出す任務を与えられる。
情報を集め、作戦を練り、相手を騙しながら任務遂行に挑む様子は、まるでコンゲームのようでもあり、たまらなくスリリングだ。
ここら辺のくだりは、現代のスパイ映画と比べても、まったく見劣りしない。

戦時下という独特な環境によって生じてしまう出来事はもちろんある。
すべてを捨ててスパイになるのもそうだし、不祥事を起こして切腹を迫られるのもそうだ。
生徒のなかには苦しんで自殺してしまう人間もいる。
彼らの意識には「お国のために」が必ずあり、それは大きなプレッシャーにもなっている。
時代ゆえ、とはいえ、それは観ていて残酷だし、これが単なるスパイ映画ではなく、やはり戦争映画の側面も持っているのだとも感じさせられた。

ただ、それを除いても物語はドラマチックで、純粋なエンタメとしても相当に出来がいい。
次郎と幸子との関係や、二人が歩まざるを得なくなる非情な結末なんかは、ドラマとして素晴らしかった。

中野学校は実際に存在した機関だし、戦時下ということを無視して観るのもどうかとは思う。
そういう要素は間違いなく、この映画のひとつの良さでもあるだろう。
でも、そういうのを全部取っ払っても、面白いものは面白い。
これはこれとして、別作品として時代背景を現代に移してリメイクしてほしいなあ、と強く思った。
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