さくらえび

ブラックブックのさくらえびのレビュー・感想・評価

ブラックブック(2006年製作の映画)
4.7
ナチス占領下のオランダを生きた女ラヘルがイスラエルで昔の友達と偶然再会し過去を思い返すところから映画は始まる。

ナチスを一握りに悪とは描かず、レジスタンス達も正義とは限らない。迫害を受けながら、マルクス主義者を毛嫌いする奴もいる。抑圧から解き放たれた人々が何より醜悪で、主義をもたず男を取り替え生きる女がこの作品で唯一幸せそうだったりする。
善悪の彼岸にある、人の本質は何なのだろう。
人には善悪を超越する本能的な感情がある。人は本質的に善悪とは関係のない感情を持つ生き物であり、過酷な状況下でそれが露わになるのかも知れない。

様々な悲劇を通り過ぎたラヘルだが、彼女が新しい生活を始めたイスラエルではもうじき中東戦争が起きる。ヴァーホーヴェンは当然そのことを考えてイスラエルを選んだのだと思う。
何を伝えたいのか。厭世的なようで、生へのエネルギーを感じた作品だった。

とても重たい内容だか、ヴァーホーヴェン特有のバランス感覚で暗くなりすぎることもなくエンターテインメントとしても素晴らしい出来。