近本光司

乾いた人生の近本光司のレビュー・感想・評価

乾いた人生(1963年製作の映画)
3.5
太陽が疎とましい。わたしはまずその感覚が画面に映っていたことに驚いた。何度か挿入される太陽そのものを捉えたショットは、われわれに一切の感傷を許さず、地獄の焔のようにただ容赦なく大地を照りつける。首を折られて丸焼きにされる鸚鵡も、焼きごてを入れられる仔牛も、従順に一家について回る犬も、そうした動物とともにおのれの運命を呪う人間たちも、だれもが照りつける太陽のもとで乾ききっている。

 いくつか印象的なシーンがある。まずナイフをもった父が茂みで悪徳警官と鉢合わせたときに、わたしはカミュの『異邦人』からの引用かと早合点してはらはらした。太陽が眩しかったからという理由でアラブ人に六発の銃弾を撃ち込んだムルソーとちがって、結局かれらはただ見つめあって、警官は茂みへと消えていく。そして、なんといっても痩せほそった飼犬を猟銃をもって追いまわす一連のシーンのおそろしさといったら。とくに見つめ合う犬と鼠の切り返しショットにはたいそう昂奮してしまった。あんな切り返しが収められた映画は先にも後にも存在しないのではないか。しかしここでも犬と鼠はただ見つめあうだけだった。1940年代初頭のブラジル北東部(nordeste)、だれもが乾ききり、闘う気力すら根こそぎ奪われている。

 ところで、中盤で主人公が祭事に遭遇するのだが、まるで獅子舞のように角の生えた牛をかたどった人形が踊っていた。あれはいったいどんな民族の、どんな祭りごとなのだろう。